No.9/厚労省指針によるパワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラの具体例について①【パワハラ・セクハラ】
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No.9/2020.10.1 発行
弁護士 永岡 亜也子
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が本年(2020年)6月1日から施行されていることについては、No.3 で既にご紹介をしましたが、本号(No.9)&次号(No.10)では、果たしてどのような行為がパワハラに該当し、また、セクハラ・マタハラ・パタハラに該当するのか、厚労省が指針で例示するそれぞれの具体例をご紹介したいと思います。
1.パワハラ防止法上の「パワーハラスメント」
職場におけるパワーハラスメントとは、「職場」において行われる①「優越的な関係」を背景とした言動であって、②「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素の全てを満たすものをいいます。なお、ここにいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。したがって、勤務時間外の「宴会」などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当することになり、そこでの言動がパワハラに該当することがあり得ます。勤務時間外の「宴会」などが「職場」に該当するか否かは、職務との関連性、参加者、参加が強制か任意かといったことを考慮して判断することになります。また、「優越的な関係」とは、必ずしも職務上の地位の上下関係に限られず、同僚又は部下であっても、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合や、同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難である場合なども含まれます。「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であるか否かについては、当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等のほか、当該言動により労働者が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等、様々な要素を総合的に考慮して判断されることになりますが、代表的な言動の類型が厚労省指針に摘示されていますので、以下にご紹介します。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
① 殴打、足蹴りを行うこと
② 相手に物を投げつけること
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
① 人格を否定するような言動を行うこと(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む)
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
(5)過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた、程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこと)
① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること
② 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること
2.男女雇用機会均等法上の「セクシュアルハラスメント」
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、「職場」において行われる労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり(下記(1))、「性的な言動」により就業環境が害されること(下記(2))をいいます。これには、同性に対するものも含まれます。 なお、ここにいう「職場」の考え方は、上記1で説明したのと同様です。また、「性的な言動」の行為者は、事業主、上司、同僚に限られません。取引先、顧客、患者、学校における生徒等も「性的な言動」の行為者になり得ます。
(1)対価型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。厚労省指針に例示された典型的な例は以下のとおりです。
① 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること
② 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること
③ 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること
(2)環境型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。厚労省指針に例示された典型的な例は以下のとおりです。
① 事務所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること
② 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと
③ 事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと