No.10/厚労省指針によるパワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラの具体例について②【マタハラ・パタハラ】

No.10/2020.10.1 発行
弁護士 永岡 亜也子

3.男女雇用機会均等法上の「マタニティハラスメント」

 職場における妊娠、出産等に関するハラスメント(いわゆるマタハラ)とは、「職場」において上司又は同僚から行われる①その雇用する女性労働者の休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの(下記(1))、または、②その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの(下記(2))をいいます。厚労省指針によれば、以下のような言動が該当します。なお、ここにいう「職場」の考え方は、パワハラ・セクハラの場合と同様です。

(1)制度等の利用への嫌がらせ型

① 女性労働者が、制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の請求等をしたこと、又は制度等の利用をしたことにより、上司が当該女性労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること

② 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等をしないよう言うこと

③ 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等を取り下げるよう言うこと

④ 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該請求等をしないよう言うこと(当該女性労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む)

⑤ 女性労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動のほか、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることを含む)をすること(当該女性労働者がその意に反することを当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む)

(2)状態への嫌がらせ型

① 女性労働者が妊娠等したことにより、上司が当該女性労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること

② 女性労働者が妊娠等したことにより、上司又は同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動のほか、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることを含む)をすること(当該女性労働者がその意に反することを当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む)

4.育児・介護休業法上の「パタニティハラスメント」

 職場における育児休業等に関するハラスメント(いわゆるパタハラ)とは、「職場」において上司又は同僚から行われる、その雇用する労働者に対する育児休業等の制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。厚労省指針によれば、以下のような言動が該当します。なお、ここにいう「職場」の考え方は、上記3と同様です。


① 労働者が、制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の申出等をしたこと又は制度等の利用をしたことにより、上司が当該労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること

② 労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等をしないよう言うこと

③ 労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等を取り下げるよう言うこと

④ 労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等をしないよう言うこと(当該労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む)

⑤ 労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等を撤回又は取下げをするよう言うこと(当該労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む)

⑥ 労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動のほか、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることを含む)をすること(当該労働者がその意に反することを当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む)

5.まとめ

 No.9&No.10 でご紹介した、パワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラの具体例・典型例は、いずれも、厚労省指針で紹介されているものです。事業主が労働者に対してこれらのハラスメント言動をしてはいけないことはもちろんですが、それだけにとどまらず、事業者は、労働者間においてもこれらのハラスメント言動が行われることがないよう、その防止のための各種措置を講ずる必要があります。また、労働者においても、万一、これらのハラスメント言動をしてしまった場合には、懲戒処分等の対象にもなり得ますので、他の労働者に対してこれらのハラスメント言動をしないよう、日頃から気を付けておく必要があります。

 なお、ご紹介したパワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラの具体例・典型例は、限定列挙ではないことに注意が必要です。これら具体例・典型例に記載がないものでも、パワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラに該当することはあり得ます。いずれにしても、これらのハラスメント言動をしないためには、事業主・労働者のそれぞれが、これら具体例・典型例をよく読みこんで、自らの日頃の言動に注意を払うことが大切です。客観的に見ると、これらのハラスメント言動をしてしまっている人であっても、当の本人は、その認識や危機感を持っていない、という話をしばしば耳にすることがあります。「自分に限って大丈夫」などと軽く考えている人が、実は一番危ない、という話もよく聞く話です。この機会にぜひ、自らの日頃の言動を振り返ってみてください。