No.83/成年年齢の引き下げについて

No.83/2022.5.16発行
弁護士 川島陽介

成年年齢の引き下げについて

1.はじめに

みなさんもご存知のことと思いますが、本年4月1日より、成年年齢を18歳とする改正民法が施行され、法律上18歳以上が「成人」と扱われることとなりました。この法律の施行日である本年4月1日の時点で、18歳、19歳であった方々は、18歳の誕生日に遡って成人と扱うのではなく、本年4月1日をもって成人と扱うこととされています。 この法律の改正により、本年度の成人式には3学年の方々が一斉に集まることになるのか、賃貸住宅の契約は単独でできることになるのかなど、世間の注目を集める事柄もありますが、この医療法務だよりでは、医療機関・福祉施設においてどのような影響があるのか述べさせていただきます。

2.変わった点と変わらない点

この民法改正に伴い、各種関係法令の改正も行われています。医療関係でいえば、医師や薬剤師の資格を取得する際の年齢要件が18歳に引き下げられています(実際には、現在の育成システムからすると18歳で医師や薬剤師の免許を取得できるといったことはほぼありません。)。このような形で、成年年齢の法改正に伴い、改正された法令も各種あります。 他方で、飲酒、喫煙、ギャンブルを行うことができる年齢、養子をとることができる年齢などについては、改正はされておらず、従来どおり20歳以上であることが維持されています。医療関係では、小児慢性特定疾病医療費の支給にかかる年齢は従前のまま20歳が維持されています(児童福祉法)。

3.成年年齢の法的意味

成年年齢が変わることの法的な意味合いは、言うまでもなく、18歳以上が法的に「成人」と扱われるということです。未成年者は責任能力が限定されるものとして、親権者等の法定代理人の同意なく契約などの法律行為はできないとされており、単独で契約を行った場合などに法定代理人がその契約の取り消しを行うことができるなどの法的な保護がされていますが、18歳、19歳の方々について、このような法的な保護がなくなること(法律行為を単独でできること)を意味しています。 これは、契約事務を取り扱うこととなる医療機関・福祉施設にも妥当します。未成年者の患者や施設利用者に対しては、契約の締結の際に保護者自身を契約当事者とすることや法定代理人として署名を求める運用を行っていたものと思いますが、少なくとも、契約事務に関しては、患者や施設利用者が18歳以上であれば、同人と単独で契約をしたとしても、法的には有効に扱われることとなります。 ところで、大学病院などの高度医療施設の場合には、臨床の場面において「研究」として患者等に協力を求めることがあるかと思います。「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」によると、原則として未成年者の場合には親権者などの代わりに同意できる者である「代諾者」の同意を得ることが必要とされていますが、今回の法改正により未成年者は18歳未満とされたことから、18歳以上については、「代諾者」の同意は不要であると扱われることになります。


4.「成人」と取り扱ってしまうことの懸念

では、「成人」だからといって、20歳以上の成年者同様に18歳、19歳の方々を同様に扱って問題はないのでしょうか。属性は様々ではありますが、18歳の場合、現役の高校3年生である可能性も高く、日常生活や経済的にも自立していない方が多いと思われます。このため立法の過程では、様々なところから意見が寄せられ、国会においても18歳、19歳をこれまでの未成年と同様に法的な保護が可能となるような配慮を行うべきとの議論もされましたが、結局その点は未だ実現できておらず、成年年齢の引き下げのみが先行して行われている状況です。 医療機関・福祉施設としても、このような状況の中で、18歳、19歳の「成人」をどう扱うのかは十分に検討する必要があります。入院契約や施設契約の場面では、契約当事者は成人である本人とせざるを得ないものの、保証人として、本人が経済的に依存している親権者などを加えるなどの対応は必要であると思われます。逆に、保証人を用意できないため、医療行為等を受けることができないといったことがあってはいけませんので、その場合には行政等の適切な窓口を案内し、適切な医療サービス、福祉サービスが受けられるよう助言してあげることは、これまでの「成人」以上に求められることといえます。 また、さきほど述べた、大学病院等の「研究」においても、ケースバイケースではありますが、キーパーソンとなる関係者の同意をとっておくべき場面はあるかと思われます。その場合は、「代諾者」としてではなく、18歳、19歳の患者の判断を補助するものとして同意を取得することになるかと思われます。

5.治療行為等についての同意能力

少し本論と離れることになりますが、治療行為等についての同意能力について触れておきます。治療行為(特に手術のような侵襲的なもの)を行う際には、患者に同意を求めることになるかと思いますが、この際に行う「同意」が有効なものと扱われるか否かと成年年齢は必ずしもリンクしません。このような行為に対して同意をできるのは原則として本人のみであり、仮に未成年であっても、治療内容を理解し、十分に判断できる能力があれば、その同意は有効であると考えられています。したがって、成年年齢に関する法改正にかかわらず、治療行為等のインフォームドコンセントの場面においては、一定の未成年者については、本人の同意を取得すべき(する必要がある)といえます(民法では15歳以上に遺言能力があるとされており、前述した指針では、16歳以上の未成年者について代諾者不要の例外が設けられています。これらからすると15、16歳程度がひとつの指標と考えられるかもしれません。)。そしてその上で、保護者などからの署名捺印された確認書(当該患者が真意で同意したことを保証する確認書等)をいただいておくのが無難であるということになりそうです。

6.おわりに

改正民法が成立したのは、令和2年6月13日であり、施行は本年4月1日とされたことから、医療機関・福祉施設においてある程度の準備を行っていたものと思いますが、各機関において用いている各種書類について、これまでの成年年齢を根拠に「20歳未満の場合に」などといった記載がないか再度確認されてみてください。「18歳未満の場合に」や「未成年者の場合」などといった形に表記を改める必要があります。 とはいえ、繰り返しになりますが、法改正により、成人になったといっても、まだ高校生という方々もたくさんいる状況ですので、社会的責任という側面から、同人らを庇護すべき場面は多々あると思われます。各医療機関・福祉施設において、成年年齢の引き下げに伴い、18歳、19歳の成人にどのような+αの対応を行うか、一度検討されても良いかと思われます。