No.71/これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その1)
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No.71/2022.2.15発行
弁護士 福﨑博孝
これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その1)
-医師の働き方改革関連法の成立とその目指す方向-
(はじめに)
医師の働き方改革関連法(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律〔いわゆる「医療法等改正法」〕)が令和3年(2021年)5月21日に成立しました。これで医療界は、目指すべき‟医師の働き方改革のゴール”に向かってそのスピードをさらに加速しなければならないこととなります。いわば、第1コーナーの準備期間を終え、立法化(医療法等改正法の成立)の第2コーナーを曲がって、‟2024年4月の第3コーナー”に向かって一直線というところですが、これからの第3コーナーの2024年4月までの一直線こそが大変な道のりになりそうです。しかし、この困難な道程を照らしてくれるのが、①「平成31年3月26日付の医師の働き方改革に関する検討会の報告書」(以下「平成31年検討会報告書」)、②「令和2年12月22日付の医師の働き方改革の推進に関する検討会の中間とりまとめ」(以下「令和2年推進検討会中間とりまとめ」)ということになります。そして、医師の働き方改革では、この2つの報告書で明らかにされている理念や考え方に従って、この一直線の道程を進むことになりますが、その理念や考え方は、③「医師の労働事件短縮計画作成ガイドライン(案)」、④「医療機関勤務環境評価センターの評価について」、⑤「医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)」等で具体化されています(厚労省HPから)。これら①~⑤の資料を検討すると、「これからの‟医師の働き方改革”の動き」の概要を知ることができます。このシリーズ(これからの‟医師の働き方改革”-病院はどうすれば?-〔その1~その4〕)においては、厚労省の考える‟現時点から2024年4月までの改革とその手続”、また、‟その後の2036年までの改革とその手続”の「医師の働き方改革のロードマップ」を明らかにしてみたいと思います。
1.医師の働き方改革と今後のスケジュール(概要)
‟医師の働き方改革と今後のスケジュール”については、上記③の「令和3年短縮計画作成ガイドライン案」の「(はじめに)の冒頭」で、以下のように的確な要約がなされていますので、簡略化してそれを紹介します。
(1)労基法141条の規定により、医師に対する時間外・休日労働の上限規制が令和6年(2024年)4月から適用される。 一般の労働者については、同法の規定により、1か月の時間外労働時間数は45時間を超えないことを原則としつつ(年間360時間以内)、これに収まらない場合には、労基法36条1項の規定による時間外・休日労働に関する協定(いわゆる「サブロク協定」。以下「36協定」といいます。)の特別条項により、年に6か月(年に「6回」)を限度として、月100時間未満の時間外・休日労働が認められているが、その場合の年間の時間外労働は720時間までとされている。また、36協定により労働させる場合であっても、時間外・休日労働について、単月100時間未満、かつ、複数月平均80時間以内とすることも求められている。 一方、医師については、‟医師の働き方改革に関する検討会”及び‟医師の働き方改革の推進に関する検討会”における議論を経て「医療法等改正法」が成立したところであり、令和6年(2024年)以降の上限規制の枠組み(医師の時間外・休日労働の上限)については、〇36協定上の上限及び36協定によっても超えられない上限をもとに、原則年960時間(A水準)・月100時間未満とした上で、〇地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる基準(連携B水準・B水準)及び集中的に技能を向上させるために必要な水準(C水準)として、年1860時間・月100時間未満の上限時間数を設定している。
(2)さらに、平成31年検討会報告書及び令和2年推進検討会中間とりまとめにおいては、地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準(連携B水準・B水準)を令和17年(2035年)度末までに廃止することとされており、令和17年度末に向けては、より一層の労働時間の短縮の取組が求められている。このため、令和6年(2024年)4月の‟医師に対する時間外労働の上限規制”の適用開始及び令和17年度末の連‟携B水準・B水準の廃止目標”に向けて、‟医師の健康確保”と‟地域の医療提供体制の確保”を両立させつつ、各医療機関における医師の労働時間の短縮を計画的に進めていく必要がある。
(3)医師の労働時間の短縮を計画的に進めていく上では、医療機関として、まずは‟‟医師労働時間短縮計画”(以下「短縮計画」)を作成し、同計画に沿って、医療機関の管理者のリーダーシップの下、医療機関全体として医師の働き方改革を進めていくことが重要である。
2.医師の働き方改革の目指すもの(‟医師の健康”を守ることが、すなわち‟医療の質や安全”を守ること!)
平成31年検討会報告書(上記①)では、2024年(令和6年)4月までに医師の働き方を変革することを求めています。すなわち、医師の長時間労働については、令和6年4月までに一定の目途を立てないと、時間外労働が違法となり罰則を科される可能性があるのです。そしてそこでは、次のような指摘がなされています。
(1)医師は、長時間労働による疲労蓄積や睡眠負債が、提供する医療の質や安全の低下につながることを踏まえ、‟自らの健康を確保すること”が、‟自身にとっても、また医療機関全体としてより良質かつ適切な医療を提供する上でも重要であること”を自覚し、その認識の下に自らの業務内容や業務体制の見直し等を行い、働き方の改革に自主的に取り組むこと。副業・兼業を行うに当たっては、自己の労働時間や健康状態の把握・管理に努め、副業・兼業先の労働時間を主たる勤務先に適切に自己申告すること。
(2)わが国の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており、危機的な状況にあるという現状認識を共有することが必要であること。こうした医師の長時間労働は、個々の医療現場における「患者のために」「日本の医療水準の向上のために」が積み重なったものではあるが、日本のよりよい医療を将来にわたって持続させるためには、現状を変えていかなくてはならないこと。
(3)医療機関と医療従事者が話合いの中で取り組むことはもとより、行政、国民それぞれの立場から、また、医療分野と労働分野の双方から、‟医師”と‟国民が受ける医療”の両方を社会全体で守っていくという強い決意の下に、医師の働き方改革に取り組んでいかなければならないこと。まずは、2024年4月からの平成30年改正の労働基準法に基づく新たな時間外労働に対する規制(新時間外労働規制)の適用まで、必要かつ実効的な支援等を十分に講じながら、最大限の改革を行い、その後も絶え間なく取組みを進めていかなければならないこと。
(4)医師の診療業務の公共性、不確実性、高度の専門性、技術革新と水準向上などを踏まえると、医師に係る時間外労働規制については、次の点を考慮する必要があること。〇医師についても、一般則が求めている水準と同様の労働時間を達成することを目指して労働時間の短縮に取り組むこと。〇医療の公共性・不確実性を考慮し、医療現場が委縮し必要な医療提供体制が確保できなくなることのないような規制とする必要があること。しかし、その場合であっても、医療安全の観点からも、医師が健康状態を維持できることは重要であること。〇具体的な取組として、1日6時間程度の睡眠を確保できるようにすること。継続的に労働時間のモニタリングを行い、一定以上の長時間労働の医師がいる医療機関に対して、重点的な支援を行うこと。〇医師の知識の習得や技能の向上のための研鑚の意欲を削がず、医療の質の維持・向上をはかることができるようにすることが重要であること。〇出産・育児期の女性など時間制約のある医師が働きやすい環境を整える必要があること。