No.72/これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その2)

No.72/2022.2.15発行

弁護士 福﨑博孝


これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その2)

-医師の労働時間(その‟原則”と‟例外”と‟例外の例外”)-

3.医師の労働時間(その原則と例外)

(1)労働基準法(一般労働者)の原則と例外

労基法では、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと定められており(労基法32条1項・2項、いわゆる「法定労働時間」)、また、1週間に1日は休日としなければなりません(労基法35条)。これを超えて労働させるためには、職員(過半数の労働者)との間で、いわゆる「36協定」(サブロク協定)を締結し、労働基準監督署に届け出なければならないのです(同36条)。 そしてさらに、平成31年4月施行の改正労基法において、36協定でも超えることのできない「罰則付の時間外労働の限度」(上限時間)が定められました(この改正法施行の当時は、医師など今般の時間外労働上限規制の適用を猶予された業務を除く‟一般の労働者に適用される規制”となっています。)。すなわち、〇法定労働時間(週40時間(8時間/日)を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として月45時間(約2.25時間/日)、かつ、年360時間(平均30時間/月、約1.5時間/日)としていますが、〇臨時的な特別の事情がある場合には、時間外労働時間を年720時間(平均60時間/月、約3時間/日)とし、この場合には2か月~6か月の各平均でいずれも休日労働を含んで月80時間(約4時間/日)以内でなければならず、また、単月では休日労働を含んで100時間(約5時間/日)未満、さらに特例の適用は年6回を上限としています。以上に違反すると罰則が科されます。

(2)医師(勤務医)の‟例外(A水準)”と‟例外中の例外(B水準、C水準)”

(a)A水準(通常予見不可の業務量の増加等)

通常予見することのできない業務量の増加等に伴い臨時的に医師限度時間を超えて労働させる必要がある場合の1年あたりの延長することができる時間数の上限を、年960時間(平均80時間/月、約4時間/日)、かつ、単月で100時間(約5時間/日)未満、としています。これは、上記(1)の一般労働者の時間外労働時間年720時間の医師における例外ということになります。ここでは、脳・心臓疾患の労災認定基準(過労死基準)が考慮されており、「複数月平均80時間/月」、「単月で100時間未満」というのは、過労死基準を超える医師の労働は許されないという発想に基づくものだと思われます(しかし、後述のとおりB水準においてはそれをはるかに上回ります。)。

(b)B水準・連携B水準(地域医療確保暫定特例水準)

しかし、地域での医療提供体制を確保するためには、上記(a)のA水準では対応できないという現実があります。そこで、地域での医療提供を確保するための経過措置として暫定的な特例水準(B水準)を設けることとしました。臨時的な必要がある場合の1年あたりの延長することができる時間数の上限を、年1860時間(平均155時間/月、7.75時間/日)、かつ、単月で100時間(5時間/日)未満としています。しかし、この暫定特例水準はあくまでも暫定的なものであって、B水準は、2035年度末までで解消されます(最終的に、B水準はA水準に統合されます。)。すなわち、医療機関が必須とされる機能(地域医療提供体制の確保)を果たすために、当該医療機関内の業務によりA水準を超えざるを得ない場合(当該医療機関における時間外・休日労働が年960時間を超えざるを得ない場合)であり、この場合に適用される水準として時間外・休日労働の上限を年1860時間とする水準を設け、都道府県が医療機関を指定して適用することとされたのです。要するに、B水準(年1860時間/年・100時間未満/月)は、例外を認められた医師の中でもさらに「例外」が認められているということになります。 また、地域医療確保暫定特例水準においては、副業・兼業先での労働時間と通算して時間外・休日労働の上限を年1860時間とする水準を設け、医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医療機関を指定して適用することとなります。これが連携B水準であり、B水準と同じ取扱いになるということになります。

(c)C水準(集中的技術向上水準)

医師の例外的な取扱いにはC水準というものもあります。すなわち、集中的に医療技術の向上を図るために、①初期研修医及び専門医研修に参加する後期研修医に認められる例外的水準(C-1水準)、②医籍登録後の臨床に従事した期間が6年目以降の者であり、先進的な高度技能を有する者を育成するために認められる例外的水準(C-2水準)があり、いずれもその特例内容はB水準と同じということになります。これらを「集中的技能向上水準」といいます。すなわち、この場合においても1年あたりの延長することができる時間数の上限を、年1860時間(平均155時間/月、7.75時間/日)、かつ、単月で100時間(5時間/日)未満としています。なお、この暫定特例水準(C)水準は、2035年度末までで解消されることはありませんが、将来に向かって減縮の方向で努力するよう求められています。

(3)都道府県による指定( B水準、連携B水準、C水準)

(a)2024年において全ての勤務医がA水準の適用となることを目指し、労働時間の短縮に取り組むことになりますが、地域医療提供体制確保の観点からやむを得ずA水準を超えざるを得ない場合も想定され、その場合には‟各都道府県”がB水準の適用を指定します。そして、医師養成には約10年以上を要することから2024年段階での需給ギャップを医師数の増によって埋めることは困難と考えられており、また、わが国全体で医師需給が均衡した後も、引き続き医師の偏在を解消するための取組が必要であることから、B水準を解消する目標年が2036年(令和18年)とされているのです。なお、C水準についても、都道府県が指定することになります。 B水準は、2024年4月に、「必要な地域医療が適切に確保されるか」の観点からやむを得ず設定されるものであり、三次救急医療機関、一定の要件を充たす二次救急医療機関、在宅医療として特に積極的な役割を担う医療機関など都道府県が地域医療の確保のために必要と認める医療機関を指定することになります。 また、都道府県の指定は、当該医療機関における医師の長時間労働の実態及び労働時間短縮の取組状況について、医療機関勤務環評価センター(いわゆる「評価機構」)が行う客観的な要因分析・評価を踏まえた上で判断することになります。

(b)都道府県から指定を受けた特定医療機関(特定地域医療提供機関〔B水準〕、連携型特定地域医療提供機関〔連携B水準〕、技能向上集中研修機関〔C-1〕、特定高度技能研修機関〔C-2〕)は、3年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失うことになります。すなわち、B水準・連携B水準の指定を受けた医療機関は、更新までの3年の間に‟A水準を目指しての労働時間の短縮努力”が求められており、そのことは更新時に都道府県からのチェックや指導を受けることになるはずです。

(4)過労死基準との関係

過労死等の労災認定においては、事案ごとに過労死等の労災認定基準に沿って、個別に判断されることになります。労基署に過労死等の労災請求がなされた場合の取扱いは、適用される時間基準が労働の上限時間数の違いによって変わるものではないとされています。すなわち、医師の労働時間規制(それによる時間外労働時間の許容)は過労死認定に影響はないとされています。しかし、実際にはどうなのか、制度が動き出してみないと分かりません。