No.64/公益通報者保護法とその改正について(その2)

No.64/2021.12.1発行
弁護士 福﨑博孝

公益通報者保護法とその改正について(その2)
-改正法に基づく指針について-

公益通報者保護法の令和2年6月改正については、臨床医療法務だよりNo.19(2020年12月15日発行)でも紹介しましたが、令和3年4月には公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会(以下「検討会」)が消費者庁に対し報告書(以下「検討会報告書」)を提出しています。改正法では、①保護対象の拡大、②外部通報の要件の緩和、③内部通報体制の整備の義務付けがなされており、特に③については、「公益通報対応業務従事者を定めること」、「内部公益通報対応体制の整備その他必要な措置をとること」が事業者に求められており、検討会報告書では、そのことを指針化しているのです(政府は、この指針に基づいて、想定される具体的取組事項等を示す「指針の解説」(いわゆる「ガイドライン」)を策定する予定です。)。すなわち、医療機関その他多くの組織において、対応体制整備が現実のものとなっていますので、ご留意ください。 ここでは、上記③について指針化された内容(以下の「〇」の部分)を紹介します。いずれも、「事業者は、…」とされており、事業者がこれを「規程化」することを想定しています。したがって、各組織とも、公益通報者保護規程などという規程の制定、その他の対応体制の整備が喫緊の課題となっています。

第1 内部公益通報対応体制の整備その他必要な措置(法11条2項関係)

1.内部公益通報について部門横断的に対応する体制の整備

(1)内部公益通報受付窓口の設置等

ア 部門横断的な窓口の設置等

〇 事業者は、内部公益通報受付窓口(事業者外部でも構わないし、ハラスメント通報・相談窓口等を兼ねても構わない)を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定めなければならない。

イ 組織の長その他幹部からの独立を確保する措置

〇 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付けられる内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置(例えば、監査役などの監査機関からの報告を受けるなど)をとらなければならない。

(2)内部公益通報受付窓口経由の公益通報対応業務に関する規律

ア 受付、調査、是正に必要な措置

〇 事業者は、内部公益通報受付窓口において内部公益通報(匿名による場合を含む)を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施しなければならない(匿名の連絡を可能とする仕組みを導入する)。

〇 事業者は、上記の調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとらなければならない。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置を採らなければならない。

イ 公益通報対象業務における利益相反の排除
〇 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して行われる公益通報対応業務(外部委託する場合も含む)について、事案に関係する者を公益通報対象業務に関与させない措置をとらなければならない。

※ いわゆる顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とすることについては、顧問弁護士に内部公益通報をすることを躊躇する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意する必要がある。また、顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とする場合には、その旨を労働者等向けに明示するなどにより、内部公益通報受付窓口の利用者が通報先を選択するに当たっての判断に資する情報を提供することが望ましい。

2.公益通報者を保護する体制の整備

(1)不利益な取扱いを防止する体制の整備

〇 事業者は、その労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとらなければならない。

〇 事業者は、不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとらなければならない。

(2)範囲外共有等を防止する体制の整備

〇 事業者は、その労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとらなければならない。

※ 範囲外共有とは、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有することをいう。

〇 事業者は、その労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとらなければならない。

※ 通報者の探索とは、公益通報をした者を特定しようとする行為をいう。

〇 事業者は、範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとらなければならない。

3.内部公益通報対応体制の実効的に機能させるための措置

(1)労働者及び役員等に退職者に対する教育・周知

〇 事業者は、公益通報者保護法及び内部公益通報対応体制について、労働者及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行わなければならない。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行われなければならない。

〇 事業者は、労働者及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応しなければならない。

(2)是正措置等の通知

〇 事業者は、書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知しなければならない。

(3)記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者及び役員への開示

〇 事業者は、内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管しなければならない。 〇 事業者は、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行わなければならない。

〇 事業者は、内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者及び役員に開示しなければならない。

(4)内部規程の策定及び運用

〇 事業者は、この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用しなければならない。

第2 公益通報対応業務従事者の定め(法11条1項関係)

1.従事者として定めなければならない者の範囲

公益通報者を特定させる事項の秘匿性を高め、内部公益通報を安心して行うためには、公益通報対応業務のいずれの段階においても公益通報者を特定させる事項が漏れることを防ぐ必要がある。また、法11条2項において事業者に従事者を定める義務を課した趣旨は、公益通報者を特定させる事項について、法12条の規定により守秘義務を負う従事者による慎重な管理を行わせるためであり、同趣旨を踏まえれば、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して、公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定めることが相当といえる。そこで、以下の内容を指針において定めることが相当といえる。

〇 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。

2.従事者を定める方法

従事者は、法12条において、公益通報者を特定させる事項について、刑事罰により担保された守秘義務を負う者であり、公益通報者を特定させる事項に関して慎重に取り扱い、予期に反して刑事罰が科される事態を防ぐため、自ら刑事罰で担保された守秘義務を負う立場にあることを明確に認識している必要がある。

〇 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。