No.29/チーム医療における医療従事者の責任(最高裁判決を中心として)

No.29/2021.3.15発行

弁護士 福﨑 龍馬

現代の医療においては、医師が一人で全ての医療行為を行うことはできず、複数の医師・多職種の医療スタッフらが協同して、医療行為を行うことが多くなっています。複数の医療従事者が分担して、一つの医療行為を行う場合(以下「チーム医療」といいます。)において、その医療チームのうち一部の医療従事者に何らかの過失があった場合に、‟他の医療従事者(特に当該医療行為の総責任者)が、どのような責任を負うことになるのか˝について、過去の最高裁判例を踏まえながら考えてみたいと思います。

第1 最高裁判決平成20年4月24日(以下「平成20年判決」といいます。)

チーム医療における有名な判決として、この平成20年最高裁判決があります。具体的な事案の内容は、「Aさんが、大動脈弁狭窄及び大動脈弁閉鎖不全により大動脈弁置換術が必要であると診断され、ある大学病院の心臓外科に入院しました。同大学のB教授の助手であるC医師が、Aさんの主治医となり、術前検査を実施し、カンファレンスにおいて大動脈弁置換術の手術適応が確認されました。主治医であるC医師がAさん及びその家族に手術の必要性、内容、危険性等を説明しましたが、本件手術で実際に手術を行った執刀医であるB教授自身は、Aさん達に、手術の説明をしたことがありませんでした。翌日、手術が行われ、B教授が術者、C医師らが助手となって、本件手術が進められましたが、Aさんの大動脈壁が薄く脆弱であったことなどから出血があり、止血・縫合などを行ったが、循環不全により、手術の翌日に死亡した。」というものです。裁判所は、B教授らに「手術手技上の過失はない」と判断しましたが、一方で、B教授は、‟チーム医療の総責任者であり、かつ、手術を執刀したものとして、直接Aさんに手術の危険性等を説明すべき義務があったのではないか˝という点が問題となりました。 最高裁は、「一般に、チーム医療として手術が行われる場合、チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有するものというべきである。しかし、チーム医療の総責任者は、上記説明を常に自ら行わなければならないものではなく、手術に至るまで患者の診療に当たってきた主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有している場合には、主治医に上記説明をゆだね、自らは必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許されるものと解される。そうすると、チーム医療の総責任者は、主治医の説明が十分なものであれば、自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないというべきである。また、主治医の上記説明が不十分なものであったとしても、当該主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有し、チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導、監督していた場合には、同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。このことは、チーム医療の総責任者が手術の執刀者であったとしても、変わるところはない。」と判断しました。要するに、チーム医療の総責任者が、自ら直接患者に説明を行わなかったとしても、①主治医が十分な説明を行うか、または②仮に主治医が十分な説明を行わなかったとしても、主治医が十分な知識・経験を有し、かつ、総責任者が必要に応じて当該主治医を指導・監督していた時は責任を負わない、ということを明らかにしたものといえます。

第2 主治医が十分な知識・経験を有していなかった場合(最高裁判決平成17年11月15日 以下「平成17年判決」といいます。)

一方、刑事事件の判決ではありますが、平成17年最高裁判決では、総責任者の責任が認められました。事案は、医師免許を取得して5年目の主治医が、大学病院において悪性腫瘍摘出手術後の抗がん剤治療を実施するに当たり、文献を誤読し、週単位で投与すべき抗がん剤を日単位で投与したために、当時16歳の女性患者を抗がん剤過剰投与による副作用により死亡させたというものです。この事案では、主治医の他に、指導医、教授ら3名が業務上過失致死罪で起訴され、主治医のみならず、指導医、教授も有罪とされています。判決では、「B(主治医)は、医師として研修医の期間を含めて4年余りの経験しかなく、被告人(教授)は、本センターの耳鼻咽喉科に勤務する医師の水準から見て、平素から同人らに対して過誤防止のため適切に指導監督する必要を感じていたものである。このような事情の下では、被告人(教授)は、主治医のBや指導医のAらが抗がん剤の投与計画の立案を誤り、その結果として抗がん剤が過剰投与されるに至る事態は予見し得たものと認められる。」として、主治医が十分に臨床経験を有していない場合には、チーム医療の総責任者である教授に責任があるとしました。 医療の現場には限られない常識的な話ではあると思いますが、総責任者は、主治医が、当該医療行為について十分な知識・経験を有しているかを見極めることが重要となり、十分に知識・経験を有しているのであればある程度任せることも可能ですが、そうでない場合には、十分な指導・監督を行うことが必要となります。

第3 専門分野が異なる医師・多職種のスタッフ間のチーム医療及び、外部の検査機関との連携

以上の二つの判決は、同一科の複数の医師からなるチーム医療での責任の所在が問題となった事案です。一方で、複数の科の医師が協同して医療を行う場合や、医師と他の多職種スタッフ(看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士等)と連携する場合(専門分野が異なるチーム医療)の責任の所在については、最高裁裁判所の判例はいまだ存在しないようです。しかし、現代の医療は、高度化、複雑化し、専門分野が分化していることからすると、上記二つの最高裁判決(判例)の考え方を、専門分野が異なるチーム医療の場面でも援用できるかについては問題がありそうです。それぞれが専門分野に特化し、分業することによって高度な医療を効率的に提供できる体制が整えられているにもかかわらず、他の専門分野の医療従事者の行為まで厳重に監督しなければならないとなると、非効率であるだけでなく、チーム医療を担う医療従事者に事実上の不可能を強いることにもなりかねません。他の専門分野の医療従事者が行った医療行為が明らかに異常なものであり、それが容易に異常なものであることが分かるような場合でない限りは、基本的に、他の専門分野の医療従事者の行為を信頼してよく、それによる責任も負わないものと考えるべきではないでしょうか(いわゆる「信頼の原則」)。 また、これは、医師が外部の検査機関等に検査依頼した場合も同様です。外部に依頼する検査というのは、当該医師が所属する医療機関では、検査できない高度な専門性を有するからこそ、外部に依頼しているはずです。外部に依頼した検査結果が、明らかに疑問を抱かせるような内容のものでない限り、原則として、医師は、検査機関の検査結果を信頼してよいものと考えられます(大島眞一「医療訴訟の現状と将来 最高裁判例の到達点」判例タイムズ1401号においても、同様の見解が述べられています。)。 いずれにしても、以上の論点については、裁判例としても成熟しておらず、最高裁判決などの判例が存在するわけではないので、様々な議論があり得ます。したがって、確たる結論をいうことはできませんが、専門分野が異なるチーム医療においては、当該専門分野の専門性の程度や当該医療の内容・担当する医療従事者などの具体的な事情を考慮し、相互の医療従事者間に信頼の原則を適用することができるかどうか等の視点をもって判断するしかないと考えられます。