No.22/ ペイシェントハラスメントへの対処法(その4)-その理論と実践-

No.22/2021.1.15発行
弁護士 福﨑 博孝

2.ペイシェントハラスメントへの組織的対応

(1)病院組織としての態勢(体制)の在り方

病院組織としての態勢(体制)の在り方を考えるときに最も重要なことは、(1)常に病院組織で対応し、(2)常に複数で対応して、(3)常に職員を守ること!ということになります。いわば“ペイハラ対応3原則”というもので、これが1つでも欠けるとペイハラ対応に支障が生じます。ペイハラ対応には「こうしたら、必ずペイハラが解決する」という正解・正答はありませんが、ペイハラ対応3原則を欠くとその解決は難しくなります。

① 常に病院組織として対処法を検討し、具体的な案件についても病院組織の問題として対処して、ペイハラ患者家族に対しては常に担当者の複数人で対応する。 臨床現場においてペイハラ患者家族と対峙し神経をすり減らしているペイハラ担当者にとって「病院組織の後方支援」が必要不可欠です。ペイハラ担当者は、“病院組織の後方支援がある”と信じられるからこそ、ストレスのたまるペイハラ患者家族と対峙することができるのです。 また、ペイハラ患者家族に対しては、ペイハラ担当者が複数で対応する必要があります。ペイハラ患者家族への対応は、身体的にも精神的にも通常とは比べものにならないくらいのエネルギーを使う作業であり、その作業にわずか一人の職員で対応しようとするのがそもそも無理な話というべきなのです。

② 現場のペイハラ担当者のみに任せっきりにせずに、常に病院組織において協議を重ねながら、一つひとつの対応を病院組織として判断していく。 ペイハラ事案について、ペイハラ担当者に任せっきりにすることは、当該担当者を孤立させることを意味します。病院は、病院組織として当該担当者以外の職員がバックアップし協力することができるよう、その態勢(体制)を整えるべきです。

③ 病院組織としては、「ペイハラ担当者等の職員を守ることが第一」という方針で組織的に対応する必要がある。 「ペイハラ担当者等の職員を守ること」は、医療機関としては当然のことです。そこでは、「暴力から職員を守る」という意味だけではなく、「心の傷を癒すというメンタルヘルスケア」も含めて職員を守る必要があります。過重な精神的ストレスとなっている担当者は速やかにその担当から外して交代させ、担当者から外した当該職員に対しては労働衛生としての心療内科受診などメンタルヘルス対応を行うことが求められます。

④ ペイハラ処理担当者に対しては、その指揮命令系統を整備して一定の権限を付与し、その一方では「結果責任」を問わない。 病院は、ペイハラ担当者らに対し、一定の成果を求めるのであれば、医師・看護師を含む他の職員に対する指揮命令を前提とした権限(それに近い権限)を付与しておく必要があります。また、具体的事案について病院幹部が結果論的な批判をすることはペイハラ担当者を委縮させ、その委縮したペイハラ担当者の対応がかえってペイハラ患者家族を高慢にさせ、あるいは、感情的にさせる危険性があります。

⑤ 病院内において、ペイハラ患者家族及びその予備軍に対し、当該病院が「暴言・暴力を許さない病院であること」、「暴言・暴力については警察と連携して対応する病院であること」等を院内放送や院内掲示などで広く告知し、広報しておく。院内放送やポスターの院内掲示により、「当該病院がペイハラに対して厳しく対応すること」がペイハラ患者家族及びその予備軍に分かるだけで、その効果は大きいといえます。そしてそのことが、ペイハラの予防(ペイハラ患者家族の委縮)につながり、また、当該病院の職員を安心させることになって、職員自身を守ることにもつながります。

⑥ 病院内において、ペイハラ患者家族及びその予備軍について、組織的に情報共有するようにし、その情報共有のための体制を整えておく。 ペイハラ患者家族及びその予備軍は、病院内の様々な部署においてクレームをつける等の行為を繰り返すことが多いといえます。ペイハラ患者家族を事前に特定できる場合には、その情報を病院内各部署で共有し、可能な限りトラブルを事前に回避するよう努力しなければなりません。

⑦ 患者家族がペイハラ化しそれが増幅される要因の一つに、「当該医療機関の医師・看護師等の患者家族への応対の拙さ」(ぞんざいな言葉遣い、不親切な態度・説明など)があり、その原因が劣悪な就労環境にあることも考えられることから、病院は、医師・看護師など職員の就労環境についても目を配る必要がある。 医療者の患者家族への「拙い対応」(ぞんざいな言葉遣い、不適切な態度や説明、患者への配慮を欠いた私語等)が患者家族のペイハラ化の原因となっています。これを繰り返すリピーター職員については、病院幹部による管理指導がなされなければなりません。そして、病院職員の患者家族に対するぞんざいな言葉遣い、不親切な態度や説明が、劣悪な職場環境に起因していることも少なくないことから、この点の病院幹部による就労環境への目配りも必要不可欠です。

(2)警察との連携の在り方

病院のペイハラ対応では「警察との連携」が必要不可欠であり、特に不可逆的なペイハラ患者家族においては、警察官の出動(警察介入)を求めざるを得ないことが多くなります。以下のような警察署との普段からの連携は、(1)事前に相談しておくことで具体的な事件において迅速な対応が可能となること、(2)「警察に事前相談をしており、いつにても警察の協力を得られる」ということだけで病院のスタッフ職員が安心すること、(3)ペイハラ患者家族も「警察との連携対応が可能である」ということを知るだけでペイハラ言動がおさまる場合がある(予防につながる)こと等という効果が認められます。

① 病院は、普段から警察署と連携し、当該病院における近時のペイハラ事案の状況(現状)を説明し、万一の事態(暴力、暴力のおそれ、不退去、業務妨害等が惹起された場合)には直ちに警察署から警察官を派遣してもらえるよう協力要請をしておく。

② 具体的に、ペイハラ患者家族が上記①の事態を惹き起こす可能性がある場合には、事前に警察署に相談し、事実経緯を説明した上で、万一の場合の出動(警察介入)を要請しておく。

③ 毎年1回は定期的に、当該病院におけるペイハラ事案を当該警察署に報告し、可能ならば警察署との勉強会・協議会などを行うことも検討する。