No.113/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その7)

No.113/2022.12.15発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その7)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№7】
-病院が具体的に取り組むべきペイハラ対策④-

❹ 社内(院内)対応ルールの従業員(病院職員)等への教育・研修(35頁)

病院職員については、患者家族からの迷惑行為・悪質なクレーム(いわゆるペイハラ)に対応できるように、日ごろから研修等を通じて職員への教育を行っていなければなりません。 厚労省が策定を推進した「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(以下「カスハラ対策企業マニュアル」)では、この点について、以下のようにまとめています。

研修等については、可能な限り全員が受講し、かつ定期的に実施することが重要です。中途入社の従業員(病院職員)や、顧客(患者家族)対応を行うアルバイト(病院で業務を行う非常勤職員、外部委託職員)等にも入社時に研修や説明を行うなど、漏れなく全員が受講できるようにしましょう。 教育する内容としては、経営層(病院幹部)のメッセージを含めることや、あらかじめ定めた対応方法や手順、顧客等(患者家族)への接し方のポイントといった接客実務に関する内容を盛り込むことが求められます。 その一例として、次のようなものが考えられます。

〇 悪質なクレーム(ペイハラ)とは(定義や該当行為例、正当なクレームとの相違)

〇 カスハラ(ペイハラ)の判断例(判断基準やその事例)

〇 パターン別の対応方法

〇 苦情対応の基本的な流れ

〇 顧客等(患者家族)への接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点等)

〇 記録の作成方法

〇 各事例における顧客(患者家族)対応での注意点

〇 ケーススタディ

また、階層別に経営層(病院幹部)や相談対応者(上司、現場監督者)への教育・研修を行うことも重要です。特に、経営層(病院幹部)に対しては、カスハラ(ペイハラ)の事業(病院業務)への影響や優先順位を判断した上での対応が求められることを外部講師による研修等を、通じて意識改革を図るなど、積極的に取組みを促すことが有効と考えられます。

❺ 事実関係の正確な確認と事案への対応(36、37頁)

患者家族からのクレームが正当な主張なのか、それとも、言いがかりの悪質なクレームなのかを判断することが必要になります。 そして、カスハラ対策企業マニュアルでは、この点について、以下のようにまとめています。


顧客等(患者家族)からのクレームが正当な主張なのか、言いがかりのような悪質なクレームなのか判断するため、顧客等(患者家族)の主張をもとに、それが事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認します。 事実かどうかの判断については、個別に状況を判断せず、周囲や管理者に相談する等、複数名で判断しましょう。たとえ、「今すぐ答えを出せ」と言われても、明らかな事情がない限り、極力その場で答えを出さないようにします。顧客等(患者家族)の主張が事実と異なる場合には指摘をし、事実ならば企業(病院)として適切な対応を検討します。 相談窓口対応者が、事実関係を整理する流れは、以下のとおりです。

【一般的な事実関係の整理・判断フロー】

①時系列で、起こった状況、事実関係を正確に把握し、理解する。

②顧客等(患者家族)の求めている内容を把握する。

③顧客等(患者家族)の要求内容が妥当か検討する。

④顧客等(患者家族)の要求の手段・態様が社会通念上相当か検討する。

事実関係を確認する際には、トラブルの状況を録音/録画されたものを、対応者(看護師など病院職員)が相談者(院内事案担当者)とともに確認すると、より状況を正確に把握することができます。 確認できた情報をもとに、要求の内容が妥当か、その手段・態様が社会通念上相当かを検討し、顧客等(患者家族)の要望に関して対応方針を決めていくことになりますが、あらかじめ社内(院内)で対応方針、手順を決めておくと、スムーズにその後の対応を決めることができると考えられます。

相談者(病院職員)の心身の状況や事案の受け止め方等にも配慮し、意向に沿いながら丁寧かつ慎重に事実確認を行います。また、その際には、プライバシーを保護し、不利益取扱いを行わない旨をあらかじめ伝えながら、相談に応じます。 事実の確認が完了したのち、カスハラ(ペイハラ)であると判断するに至った場合は、「❸ 対応方法・手順の策定」の記載のように、あらかじめ策定した手順・基準に沿って判断し対応します。