No.111/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その6)

No.111/2022.12.1発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その6)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№6】
-病院が具体的に取り組むべきペイハラ対策③-

【現場でのクレーム初期対応(カスハラ(ペイハラ)に発展させないために)】(30頁)

厚労省が策定を推進した「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(以下「カスハラ対策企業マニュアル」)では、‶現場でのクレームをカスハラ(ペイハラ)に発展させないための初期対応”を、次のように整理しています。カスハラ対策企業マニュアルが指摘するとおり、極めて重要なポイントということになりますから必読です。

現場対応者による初期対応においては、まずは誠意ある対応をしつつ、状況を正確に把握し、事実確認をする必要があります。ただし、顧客(患者家族)から暴力行為やセクハラ行為を受けた場合は、すぐに現場監督者(上司等)に相談する等事案を引き継ぎ、一人で対応しないようにすることが重要です。 現場対応、電話でのクレーム対応のどちらにおいても、以下の事項に留意しつつ、まずは顧客(患者家族)の主張を傾聴することが求められます。現場対応の場合は、不要なトラブルを避けるため、初期対応の時点で、複数名で対応することもよいでしょう。

その上で、カスハラ対策企業マニュアルでは、いつつかの重要なポイントを指摘しています。

1.対象となる事実、事象を明確かつ限定的に謝罪する。

対象を明確にしたうえで限定的に謝罪します。例えば、「この度は不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」といったように不快感を抱かせたことに謝り、正確に状況が把握できていない段階では、企業(病院)として非を認めたような発言をすることは望ましくありません。非を認めて謝罪するのは、事実確認をして社内(院内)で判断したときです。その際も、過失の程度に応じた謝罪をすることが望ましいです。

2.状況を正確に把握する

顧客(患者家族)が主張する内容を正確に把握することが求められます。顧客(患者家族)から話を聞く際には、途中で発言を遮ることや反論はせず、まずは一通り事情を確認しましょう。相手の話をじっくり聴くことで、顧客(患者家族)を落ち着かせることにもつながります。 一通り事情を確認した後、顧客(患者家族)が話す内容に不明確なものがあれば確認をし、不足する情報があれば追加で意見をもらい、顧客(患者家族)の勘違いがあれば正しい情報を提供します。 また、話を聞く際には、常に冷静に穏やかに対応しましょう。

3.現場監督者(一次相談対応者)または相談窓口に情報共有する

顧客(患者家族)から確認した情報は、現場監督者または相談窓口対応者に共有します。 相談対応者が正確かつ迅速に状況を把握するため、現場対応者は顧客(患者家族)の要望のみならず、出来るだけ事実関係を時系列で整理して報告することが望まれます。

【カスハラ(ペイハラ)が疑われる場合の対応】(31~32頁)

また、カスハラ対策企業マニュアルでは、‶カスハラ(ペイハラ)が疑われる場合の対応”を、次のように整理しています。これもまた、カスハラ対策企業マニュアルが指摘するとおり、極めて重要なポイントということになります。

録音・録画・対応記録・時間の計測など検証可能な証拠を収集します。また、悪質性が高いと疑われる場合は、単独での対応をせず複数名で対応します。 クレームの初期対応は、対応者が現場対応者か、電話受付対応者かによっても、その対応の内容が異なります。また、顧客(患者家族)の求めに応じて訪問するケースも想定され、現場での対応時、電話での対応時、顧客(患者家族)宅訪問対応時と各シーンにあわせて留意するポイントをまとめておくとよいでしょう。 留意するポイントとしては、以下のことが考えられます。

1.現場での対応

・ 店頭(病院受付等)で対応せず、応接室等の個室に招いて二人以上で対応する(時間・人・場所を変えて対応)

・ 相手(患者家族)が感情的になっていても、丁寧な話し方で冷静に対応し、よく話を聞く。また、言葉遣いに注意し、専門用語などは使わないようにする。

・ 質問を交えながら詳細に情報を確認し、メモを取って要点を確認する。

・ 必要があれば相手(患者家族)の了解を得て録音する。

・ 極力議論は避け、問題を解決しようとする前向きの姿勢を感じさせる。

・ その場しのぎの回答はせず、対応できないことははっきり断る。

・ 相手(患者家族)を落ち着かせたい場合は、後で確認して回答するなど冷却期間を設ける。

2.電話での対応

・ 苦情を専門に受け付けるため、専門電話を設置して録音ができるようにしておく。

・ 基本的には、第一受信者が責任を持ち、問い合わせ案件のたらい回しをしない。

・ 丁寧な言葉遣いで、相手(患者家族)がゆっくりと理解できるように説明する。

・ 顧客(患者家族)の発言内容と齟齬が出ないよう、メモを取りながら話を聞き、復唱して確認する。

・ 対応出来ること出来ないことをはっきりさせ、相手(患者家族)に過大な期待を抱かせない。

・ 即時回答できない内容については、事実を確認してから追って返事する。

・ 途中で電話を中断するときは、社内(院内)での相談内容が漏れないように必ず電話の保留機能を利用する。

3.顧客(患者家族)宅訪問による対応

・ 冷静になりにくい時間帯(夜間や早朝)の訪問は避ける。

・ 喫茶店など周囲から聞かれる場所や決められた場所以外にはいかない。

・ あらかじめ訪問先や問題点について情報を集め、問い合わせ内容への対応方針を決めておく。

・ まずは、相手(患者家族)の言い分を聞くだけにする。

・ できるだけ二人で行く(一人では対応させない。一方、多人数での訪問も控える。)

・ 現場での些細な言葉や態度で、相手(患者家族)の不信感を招くことやその後の対応をこじらせないよう、原因がはっきりしない時点では安易な推定で説明をしない。