No.105/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その3)

No.105/2022.10.17発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その3)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№3】
-パワハラ防止指針におけるペイハラへの病院の取組みと、その法的責任-

4.パワハラ防止指針で求められるカスハラ(ペイハラ)への企業(病院)の取組みと、その法的責任

(1)パワハラ防止指針で求められるカスハラ(ペイハラ)に対する取組み(16頁)

カスハラ対策企業マニュアルでは、「パワハラ防止法(通称)に基づき厚労省が告示したパワハラ防止指針(通称)においては、以下のように、事業主(病院)は、顧客等(患者家族)の著しい迷惑行為によって、雇用する労働者(病院職員)の就業環境が害されないよう、相談対応体制や被害者への配慮のための取組みを行うことが望ましく、また、被害防止のための取組みを行うことが有効である」と定めています。 そしてその上で、「事業主(病院)が…顧客等(患者家族)からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組み」として、次のような説明をしています。

事業主(病院)は、…顧客等(患者家族)からの著しい迷惑行為(暴力、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者(病院職員)が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、以下のような取り組みを行うことが望ましい。

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

(2)被害者への配慮のための取組み(被害者へのメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組み)

(3)…顧客等(患者家族)からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組み(マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組み)

(2)カスハラ(ペイハラ)に関する企業(病院)の法的責任(17頁)

以上のとおり、パワハラ防止法ではカスハラ(ペイハラ)について何ら触れるところがありません。また、パワハラ防止指針においても、事業者(病院)が労働者(病院職員)の‶雇用管理上の配慮”として「取組むことが望ましい事項」としてはいますが、それが「講ずべき措置」とまではされていないのです。すなわち、これらの取組みは「事業者(病院)の配慮義務」にすぎず、「講ずべき措置」(措置義務)とはされていないことから、事業者(病院)にとっては法的な責務・責任とまではいえないようにも思えます。 しかし、一概にはそうとも言い切れないことに注意してください。つまり、パワハラ防止法・パワハラ防止指針におけるカスハラ対応についての言及は、あくまでも‶労働行政”におけるものであって、民事上の権利義務関係については訴訟上違った取扱いがなされる可能性(このような措置を講じなかったことによる損害賠償責任を負う可能性)が高いのです。

カスハラ対策企業マニュアルでは、そのことを以下のように指摘しています。すなわち、「企業及び事業主(病院)として適切な対応をしてない場合、被害を受けた従業員(病院職員)から責任を追及される可能性があります。」とし、「以下の事例は、保護者による教諭に対する理不尽な言動があった際に、当該教諭の管理監督者である校長に賠償責任が追及された事例です。」(ペイハラ事例で言えば、「患者家族による医師・看護師など病院職員に対する理不尽な言動があった際に、当該病院職員から管理監督者である院長に賠償責任が追及された事例」ということになりますが、実際には病院も被告にされることになります。)として、以下のとおり、2つの裁判例を紹介しています。

裁判例① 【カスタマーハラスメントに対して不適切な対応をとったことで賠償責任が認められた事例】

市立小学校の教諭が児童の保護者から理不尽な言動を受けたことに対し、校長が教諭の言動を一方的に非難し、また、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に当該教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことについて、不法行為と判断し、小学校を設置するA市及び教員の給与を支払うB県は損害賠償責任を負うと判断されました。 (甲府地判平成30年11月13日より要約)

裁判例② 【顧客トラブルへの対応を十分行っていたことで賠償責任が認められなかった事例】

買い物客とトラブルになった小売店の従業員が、会社に対し、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を欠いたとして、損害賠償請求を求めました。 それに対し、被告会社は、誤解に基づく申出や苦情を述べる顧客への対応について、入社時にテキストを配布して苦情を申し出る顧客への初期対応を指導し、サポートデスクや近隣店舗のマネージャー等に連絡できるようにして、深夜においても店舗を2名体制にしていたことで、店員が接客においてトラブルが生じた場合の相談体制が十分整えられていたとし、被告会社の安全配慮義務違反は否定されました。 (東京地判平成30年11月2日より要約)

以上のとおり、パワハラ防止指針では、「雇用契約上の配慮として」とか、「行うことが望ましい取組み」などと表現し、あたかも法的義務ではないかのように表現していますが、実際の民事裁判になると、そうはいかないことが多いのです。 せめて、パワハラ防止指針で指摘する「行うことが望ましい措置」くらいはしておかないと、上記裁判例①のような結論(病院の責任が認められること)になりかねません。裁判例②を見てもらうとわかると思いますが、この事案では、(1)誤解に基づく申出や苦情を述べる顧客への対応について、入社時にテキストを配布して苦情を申し出る顧客への初期対応を指導し、(2)サポートデスクや近隣店舗のマネージャー等に連絡できるようにし、(3)深夜においても店舗を2名体制にしていたことで、「店員が接客においてトラブルが生じた場合の相談体制が十分整えられていた」と判断され、当該事業主の安全配慮義務違反が否定されたのです。要するに、カスハラ対策企業マニュアルで指摘されているペイハラ対応や労働者(病院職員)への対応をとっておかないと、それをしなかったことによる労働者(病院職員)の被害については病院側が負担せざるを得ないこともあるということなのです。いずれにしても、病院側の職員へのペイハラの放置は、病院の職員に対する安全配慮義務が問われ、その責任が問われる可能性があります。