No.103/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その2)

No.103/2022.10.3発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その2)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№2】
-ペイハラの判断とその対策の必要性-

2.カスハラ対策企業マニュアルにおける「ペイハラの判断基準」(11~12頁)

各企業(各病院)におけるハラスメント(カスハラ、ペイハラなど)の判断基準について、カスハラ対策企業マニュアルでは次のように言っています。

顧客等(患者家族)の行為への対応方法は、企業(病院)ごとに違いがあります。…業種や業態、企業(病院)文化などの違いから、カスハラ(ペイハラ)の判断基準は企業(病院)ごとに違いが出てくる可能性があることから、各社(各病院)であらかじめカスハラ(ペイハラ)の判断基準を明確にした上で、企業(病院)内の考え方、対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要と考えられます。企業(病院)、業界(医療界)において様々な判断基準がありますが、一つの尺度としては、①顧客等(患者家族)の要求内容に妥当性はあるか、②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかという観点で判断することが考えられます。

そしてその上で、カスハラ対策企業マニュアルでは、次のような説明をしています。

① 顧客等(患者家族)の要求内容に妥当性はあるか

顧客等(患者家族)の主張に関して、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社(当該病院)に過失がないか、または根拠のある要求がなされているかを確認し、顧客等(患者家族)の主張が妥当であるかどうか判断します。例えば、顧客(患者)が購入した商品(医療行為)に瑕疵(ミス・過失)などがなければ、顧客等(患者家族)の要求には正当な理由がないと考えられます。

② 要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か

顧客等(患者家族)の要求内容の妥当性の確認と併せて、その要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかを確認します。例えば、長時間に及ぶクレームは、業務の遂行に支障が生じるという観点から社会通念上相当性を欠く場合が多いと考えられます。また、顧客等(患者家族)の要求内容に妥当性がない場合はもとより、妥当性がある場合であっても、その言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的・性的である場合は、社会通念上不相当であると考え得られ、カスハラに該当し得ます。

もっとも、「殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスハラ(ペイハラ)に該当すると判断できることはもとより、犯罪に該当しうるものです。また、カスハラ(ペイハラ)として取り扱うかどうかに関わらず、顧客等(患者家族)からの行為で従業員(病院職員)の就業環境が害され、就業に支障が生じるようであれば、企業(病院)として従業員(病院職員)からの相談に応じる、複数名で対応する等の措置が必要となります。」とも説明されています。そのほか、「‟説明責任を十分果たした上で、それでも納得いただけないかで判断している”、‟商品(医療行為)に瑕疵(ミス・過失)がないか”、‟サービス提供側(病院側)で非がある対応をしていないか”」などで判断している企業(病院)もあるようです。


3.カスハラ(ペイハラ)対策の必要性(13~14頁、47頁)

(1)カスハラ(ペイハラ)による従業員(病院職員)、企業(病院)、他の顧客等(他の患者)への‶マイナスの影響”として、以下のようなものが考えられるとしています。

【従業員(病院職員)への影響】 業務のパフォーマンスの低下、健康不良(頭痛・睡眠不良・精神疾患・耳鳴り等)、現場対応への恐怖、苦痛による従業員(病院職員)の配置転換、休職、退職

【企業(病院)への影響】 時間の浪費(クレームへの現場での対応、電話対応、謝罪訪問、社内(院内)での対応方法の検討、弁護士への相談等)、業務上の支障(顧客等(患者家族)対応によって他業務が行えない等)、人員確保(従業員(病院職員)離職に伴う従業員(病院職員)の新規採用、教育コスト等)、金銭的損失(商品・サービスの値下げ、慰謝料要求への対応、代替品の提供等)、企業(病院)に対する他の顧客等(患者等)のブランドイメージの低下

【他の顧客等(患者家族)への影響】 来店(来院)する他の顧客(患者)の利用環境・雰囲気の悪化、業務遅滞によって他の顧客等(患者家族)がサービス(医療行為)を受けられない等

要するに、従業員(病院職員)への影響としては、精神的な負担が大きく、業務のパフォーマンスが低下することをはじめ、深刻な場合には健康不良や精神疾患を招き、休職や退職につながるケースもあるということなのです。

また、企業(病院)としては、顧客(患者家族)対応に要する時間が主な負担になっており、直接的なやり取りのみで1時間以上もかかるものをはじめ、社内(病院内)での対応方針の検討や、状況に応じて弁護士や警察といった外部との相談対応の時間を含めると相当な時間的コストを強いられることもあります。 それ以外に、現場に居合わせた他の顧客等(患者家族)においても、業務遅滞によってサービス(医療行為)が受けられないことや利用環境の悪化などの影響が考えられるとともに、店舗(病院)や企業(医療機関)のブランドイメージの低下につながるということも考えられるのです。

(2)もっともその一方で、企業(病院)は、カスハラへ(ペイハラ)の対策を講じることにより、これらのマイナスの影響を生じさせないだけでなく、以下のような‶プラスの影響”も期待できます。

【業務への影響】 複数名で状況を把握できるようになり、迷惑行為を迅速に確認し対応できるようになった。対応方法を明示することで従業員(病院職員)が働きやすくなる。顧客(患者家族)対応のノウハウが整理でき、経験を培うことができるようになった。顧客(患者家族)対応に関連する訓練・研修の受講後は、落ち着いて対応ができるようになった。

【従業員(病院職員)への影響】 職場環境が明るくなった。従業員(病院職員)から笑顔が出るようになった。会社(病院)としてカスハラ(ペイハラ)に対する姿勢を示したことで従業員(病院職員)の安心感が生まれた。

【職場環境への影響】 会社(病院)にとって好ましくない客(患者家族)が来にくくなった。迷惑行為をする人が少なくなり、職場環境が良くなった。

上記以外にも、取組みを勧めることで得られる副次的な効果として、「従業員(病院職員)を守ることを行動で示す大事さを会社(病院)組織として再認識できる」、「人材の確保が難しい中カスハラ対策等により職場環境をよくすることで離職者を減らすことにつながる」といった意見も出てきているようです。 以上のように、企業(病院)においては、カスハラ(ペイハラ)対策を進めることで、プラスの効果が期待でき、カスハラ(ペイハラ)対策に取り組む意義は大きいと考えられます。