No.80/人生最終段階(終末期)における医療行為(その3)

No.80/2022.4.15発行
弁護士 福﨑博孝

人生最終段階(終末期)における医療行為(その3)
(2.救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン-平成26年11月付-No.2)

(4)延命措置についての選択肢

また、3学会救急集中治療ガイドラインでは、「延命措置についての選択肢」について、「一連の過程において、すでに装着された生命維持装置や投与中の薬剤などへの対応として、①現在の治療を維持する(新たな治療は差し控える)、②現在の治療を減量する(すべて減量する、または一部を減量あるいは終了する)、③現在の治療を終了する(すべてを終了する)、④上記のいずれかを条件付きで選択するなどが考えられ、延命措置を減量、または終了する場合の実際の対応としては、例えば以下のような選択肢がある。」として、「(1)人工呼吸器、ペースメーカー(植込み型除細動器の設定変更を含む)、補助循環装置などの生命維持装置を終了する。(注)このような方法は、短時間で心停止となることもあるため状況に応じて家族らの立ち合いの下に行う。(2)血液透析などの血液浄化を終了する。(3)人工呼吸器の設定や昇圧薬、輸液、血液製剤などの投与量など呼吸や循環の管理方法を変更する。(4)心停止時に心肺蘇生を行わない。」を挙示しています。もっとも、そこでは、「上記のいずれを選択する場合も、患者や家族らに十分に説明し合意を得て進める。延命措置の差し控えや減量および終了時に関する患者や家族らの意向はいつでも変更できるが、状況により後戻りできない場合があることも十分に説明する。患者の苦痛を取るなどの緩和的な措置は継続する。筋弛緩薬投与などの手段により死期を早めることは行わない。」とされています。したがって、人工呼吸器を抜去することも厳格な条件の下にゆるされることもありますが、患者の家族らとの意思が非常に重要となってきます。

ところで、厚労省人生最終段階ガイドラインにおいては、3学会救急集中治療ガイドラインと異なり、延命措置の具体的な選択肢を挙示することなく、「医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケアの内容の変更、医療・ケア行為の中止等」と抽象的な表現に終始しています。開始・不開始、内容の変更、中止等を行う「医療・ケア行為」を具体的に特定することなく、それぞれの医療現場や患者の病態等に合わせ、また、その時代時代に合わせて、その医療・ケア行為の内容を具体的に判断していくことを考えているのかもしれません。

(5)延命措置への対応

3学会救急集中治療ガイドラインでは、「医療チームは、患者、および患者の意思を良く理解している家族や関係者(以下、家族らという)に対して、患者の病状が絶対的に予後不良であり、治療を続けても救命の見込みが全くなく、これ以上の措置は患者にとって最善の治療とはならず、却って患者の尊厳を損なう可能性があることを説明し理解を得る。医療チームは、患者、家族らの意思やその有無について以下のいずれであるかを判断する。」として、次のように整理しています。

1)患者に意思決定能力がある、あるいは事前指示がある場合

患者が意思決定能力を有している場合や、本人の事前指示がある場合、それを尊重することを原則とする。この場合、医療チームは患者の意思決定能力の評価を慎重に評価する。その際、家族らに異論のないことを原則とするが、異論がある場合、医療チームは家族らの意思に配慮しつつ同意が得られるよう適切な支援を行う。

2)患者の意思は確認できないが推定意思がある場合

家族らが患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重することを原則とする。

3)患者の意思が確認できず推定意思も確認できない場合

患者の意思が確認できず、推定意思も確認できない場合には、家族らと十分に話し合い、患者にとって最善の治療方針をとることを基本とする。医療チームは、家族らに現在の状況を繰り返し説明し、医師の決定ができるように支援する。医療チームは家族らに総意としての意思を確認し対応する。

①家族らが積極的な対応を希望している場合

家族らの意思が延命措置に積極的である場合、あらためて「患者の状態が極めて重篤で、現時点の医療水準にて行い得る最良の治療をもってしても救命が不可能であり、これ以上の延命措置は患者の尊厳を損なう可能性がる」旨を正確で平易な言葉で家族らに伝え、家族らの意思を再確認する。家族らの意思の再確認までの対応としては現在の措置を維持することを原則とする。再確認した家族らが、引き続き積極的な対応を希望する時には、医療チームは継続して状況の理解を得る努力をする。

②家族らが延命措置の中止を希望する場合

家族らが延命措置の終了を希望する場合、患者にとって最善の対応をするという原則に従い家族らとの協議の結果、延命措置を減量、または終了する方法について選択する。

③家族らが医療チームに判断を委ねる場合

医療チームは、患者にとって最善の対応を検討し、家族らとともに合意の形成をはかる。

4)本人の意思が不明で、身元不詳などの理由により家族らと接触できない場合

延命措置中止の是非、時期や方法について、医療チームは患者にとって最善の対応となるように判断する。

5)医療チームが判断できない場合

一方、患者や家族らの意思は揺れ動くことがまれではないため、その変化に適切かつ真摯に対応することも求められる。医療チームで判断できない場合には、施設倫理委員会(臨床倫理委員会など)にて、判断の妥当性を検討することも勧められる。

(6)医療チームの役割

3学会救急集中治療ガイドラインでは、「救急・集中治療に携わる医療チームは、その専門性に基づき、医療倫理に関する知識や問題対応に関する方法の修得をすることが求められるが、それらの治療チームによって患者が終末期であると判断され、その事実を告げられた家族らは、激しい衝撃を受け動揺する。このような状況においても家族らが患者にとって最善となる意思決定ができ、患者がよりよい最期を迎えるように支援することが重要である。そのために医療チームは、家族らとの信頼関係を維持しながら、家族らが患者の状況を理解できるよう情報提供を行う必要がある。また、家族の一人を喪失することに対する悲嘆が十分に表出できるように支援する。終末期の家族ケアの詳細については「集中治療における終末期患者家族へのこころのケア指針」などを参考にする。」とされています。

(7)救急・集中治療における終末期医療に関する診療録

3学会救急集中治療ガイドラインでは、「担当する医師らは基本的事項について確認し、的確、明瞭に記載する。このことによって、終末期の診療における様々な問題を把握し、終末期における良質な医療を展開することが可能になる。また、のちに検証を受けた際などにも、医療チームによる方針の決定、診療のプロセスなどが、医療倫理に則り妥当なものであったといえる記載に心がける。」とし、以上の観点から、終末期における診療録記載に当たっては、「(a)医学的検討とその説明(終末期であること、説明の対象となる家族らの範囲、家族らに説明した内容、家族らの理解や受容の状況など)、(b)患者の意思について(患者の意思又は事前意思の有無、家族らによる推定意思など)、(c)終末期への対応について(患者にとって最善の選択しについての検討事項、医療チームのメンバー、法律・ガイドライン・社会規範など)、(d)状況変化とその対応について((a)(b)(c)の変化・変更など)、(e)治療および方針決定のプロセスについて(いわゆる5W1H、その結果など)」を含むことが求められる。