No.79/人生最終段階(終末期)における医療行為(その2)
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No.79/2022.4.15発行
弁護士 福﨑博孝
人生最終段階(終末期)における医療行為(その2)
(2.救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン-平成26年11月付-No.1)
2.救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン(平成26年11月付)
(1)はじめに
救急・集中治療における終末期医療に関する問題を解決するために、日本救急医療学会、日本集中治療医学会、および日本循環器学会の3学会は、救急・集中治療における終末期の定義を提示し、さらに、その定義を前提として、患者・家族等や医療スタッフによるその後の対応についての判断を支援する必要があると考えて、平成26年11月に「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」(以下「3学会救急集中治療ガイドライン」)を策定しています。その一方で厚労省は、平成19年5月に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(以下「平成19年厚労省人生最終段階ガイドライン」)を策定し、平成30年3月には「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(以下「平成30年厚労省人生最終段階ガイドライン」。あわせて「厚労省人生最終段階ガイドライン」といいます。)に改訂していますが、3学会救急集中治療ガイドラインは、厚労省人生最終段階ガイドラインを前提にしているといえます。そこで本稿では、厚労省人生最終段階ガイドラインを前提として、3学会救急集中治療ガイドラインについて具体的な説明をしてみたいと考えます。
(2)基本的な考え方
3学会救急集中治療ガイドラインでは、「急性期の重症患者を対象に治療を行っている救急・集中治療においては、患者背景にかかわりなく救命のために最善の治療や措置を行っている。しかし、そのような中で適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと思われる状況に至ることがある。その際の医療スタッフの対応は、患者の意思に沿った選択をすること、患者の意思が不明な場合は患者にとって最善と考えられる選択を優先することが望ましい」とされています。また同ガイドラインでは、「患者が救急・集中治療の終末期であるという判断やその後の対応は、主治医個人ではなく、主治医を含む複数の医師(複数科であることが望ましい)と看護師らとからなる医療チーム(以下、「医療チーム」という)の総意であることが重要である。そして、悲嘆にくれる家族らの気持ちを汲み、終末期に対する家族らの理解が深まるように対応することが求められる。一方、患者や家族らの意思は揺れ動くことがまれではないため、その変化に適切かつ真摯に対応することも求められる。医療チームで判断できない場合には、施設倫理委員会(臨床倫理委員会など)にて、判断の妥当性を検討することも勧められる。」としています。すなわち、同ガイドラインでは、終末期の医療行為について、①チーム医療に基づいて、②患者の意思に従った選択をすること、③患者にとって最善と考えられる選択をすることを基本と考えており、その上で、その判断に支障をきたしそうであれば、④施設倫理委員会(臨床倫理委員会等)の判断を仰ぐこと等を勧めています。
一方、平成30年厚労省人生最終段階ガイドラインでは、「人生の最終段階における医療・ケアにおいては、できる限り早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要です。緩和が十分に行われた上で、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケアの内容の変更、医療・ケア行為の中止等については、最も重要な本人の意思を確認する必要があります。確認に当たっては、適切な情報に基づく本人による意思決定(インフォームド・コンセント)が大切です。」、「本人の意思は変化しうるものであることや、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、本人が家族等の信頼できる者を含めて話し合いが繰り返し行われることが重要です。」、「本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、その場合に本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者を含めて、事前に繰り返し話し合っておくことが重要です。」とされています。すなわち、ここには、 ACP(アドバンス・ケア・プラニング:人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス)の概念が盛り込まれ、さらに、同ガイドラインでは、「人生の最終段階における医療・ケアの提供にあたって、医療・ケアチームは、本人の意思を尊重するため、本人のこれまでの人生観や価値観、どのような生き方を望むのかを含めて、できる限り把握することが必要です。」として、これまでのIC(インフォームド・コンセント)に、SDM(シェアード・デシジョン・メーキング・共同(協働)意思決定:患者ひとり一人生活環境や習慣・好み・思いを、医療者とともに共有し、病気や治療法に関しても十分に理解した上で、その患者が最も納得する最善の治療法を選択する手法)という考え方を付加しようとしています。つまり、3学会救急集中治療ガイドラインの基本的な考え方においても、平成30年厚労省人生最終段階ガイドラインで盛り込まれたACPやSDMの考え方は無視できませんし、当然参考にしなければならないということなのです。
(3)救急・集中治療における終末期の定義とその判断
3学会救急集中治療ガイドラインでは、「救急・集中治療における終末期」について、「集中治療室等で治療されている急性重症患者に対し適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期である」とされています。そして、「救急・集中治療における終末期には様々な状況があり、たとえば、医療チームが慎重かつ客観的に判断を行った結果として以下の(1)~(4)のいずれかに相当する場合などである」とし、「(1)不可逆的な全脳機能不全(脳死判断後や脳血流停止の確認後などを含む)であると十分な時間をかけて診断された場合 (2)生命が人工的な装置に依存し、生命維持に必須な複数の臓器が不可逆的機能不全となり、移植などの代替手段もない場合 (3)その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても近いうちに死亡することが予測される場合 (4)回復不可能な疾病の末期、例えば悪性腫瘍の末期であることが積極的治療の開始後に判明した場合」を挙示しています。
ところで、厚労省人生最終段階ガイドラインでは、3学会救急集中治療ガイドラインと異なり、「終末期の定義」にも「その判断基準」にも言及されていません。これは、急性型・亜急性型・慢性型それぞれによって「終末期」の捉え方に相違があると思われること、そのことによってその判断基準にも違いが生ずること等の理由がありそうですが、いずれにしても急性型の病態においては、終末期の厳格な定義と判断基準が必要であり、それがないと臨床現場での判断に困難を生じさせることになるとの考え方に基づくものだと思われます。