No.73/これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その3)

No.73/2022.3.1発行

弁護士 福﨑博孝

これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その3)

-追加的健康確保措置(医師の働き過ぎを防ぎ、医師の健康を守る!)-

4.追加的健康確保措置

人命を預かるという医療の特性から、やむを得ず労基法の上限を超えて医師が働かざるを得ない場合があります(A水準、B水準、C水準)。その場合には、‟当該医師の健康を確保”し、‟医療の質や安全を確保”するために、一般労働者について求められている「健康福祉確保措置」(平成30年改正労基法・労基則)に追加した措置(追加的健康確保措置)を講ずることとしています。そしてこれを、一般労働者について求められる労基法の「健康福祉確保措置」を上回る措置が医師の時間外労働には要求されていることから、「追加的健康確保措置」といっています。 そして、下記の追加的健康確保措置(①連続勤務時間制限・勤務間インターバル・代償休息、②面接指導・就業上の措置)については、いずれも医療の安全や質の確保等の観点から、過労により健康を害した医師が医療提供体制を担うことのないようにするために求めるものとの位置づけがなされています。

(1)追加的健康確保措置①について

最低限必要な睡眠(1日6時間程度)を確保し、一日・二日単位で確実に疲労を回復していくべきとの発想に立ち、「連続勤務時間制限」「勤務間インターバル確保」を求めています。また、連続勤務時間制限・勤務間インターバルについて実施できなかった場合には「代償休息」を付与するとしています。

ア 連続勤務時間制限

「連続勤務時間制限」については、当直明けの連続勤務を「前日の勤務開始から28時間」と制限しています。すなわち、当直明けの連続勤務は、宿日直許可を受けている「労働密度がまばら」の場合を除き、前日の勤務から28時間までとするという意味です。これは、医療法において、病院の管理者は医師に宿直をさせることが義務付けられていることから、医師が当直勤務時において十分な睡眠が確保できないケースもあるため、そのような勤務の後にまとまった休息が取れるようにするものです。

イ 勤務間インターバル確保

勤務間インターバル確保については、24時間の中で、通常の日勤後の次の勤務までに9時間のインターバル(休息)を確保することとされています。また、宿日直許可がある場合の当直明けの場合も、通常の日勤を可能とし、その後の次の勤務までに9時間のインターバルとしています。しかし、宿日直の許可のない場合の当直明けの場合については、上述の28時間の連続勤務時間制限を適用したうえで、勤務間インターバルを18時間としています。

ウ 代償休息

やむを得ない事情により、連続勤務時間制限・勤務間インターバル確保が実施できなかった場合には、代わりに休息を取ること(代償休息)で疲労回復を図ることとされました。すなわち、勤務日において最低限必要な睡眠を確保し、一日・二日単位で確実に疲労を回復していくべきという発想に立つ連続勤務時間制限・勤務間インターバル確保を実施することが原則ではありますが、日々の患者ニーズのうち、長時間の手術や急患の対応等のやむを得ない事情によって例外的に実施できなかった場合に、代わりに休息をとることで疲労回復を図ることとしたのです。その趣旨からすれば、なるべく早く付与すること、「一日の休暇分」(8時間分)が累積してからではなく、発生の都度、時間単位での休息をなるべく早く付与すること等が求められます。

エ C-1水準(研修医水準)における特例

連続勤務制限・勤務間インターバル確保については、C-1水準(初期研修医・後期研修医)において特例があります。C-1水準が適用される臨床研修医については、その医師としての経験が十分ではないこともあり、連続勤務制限及び勤務間インターバル確保を徹底することとして、連続勤務時間制限15時間、勤務間インターバル9時間を必ず確保することとなっています。また、24時間の連続勤務が必要な場合は勤務間インターバルも24時間確保することとされています。

(2)追加的健康確保措置②について

同じような長時間労働でも負担や健康状態は個々人によって異なることから、専門医による「面接指導」により個人ごとの健康状態をチェックし、専門医が必要と認める場合には、当該医師の就業を禁止するなどの「就業上の措置」を講ずることとされています。

ア 専門医による‟面接指導”

専門医による「面接指導」は、長時間労働となる医師ひとり一人の健康状態を確認し、必要に応じて就業上の措置を講ずることを目的として行うものであり、時間外労働が「月100時間未満」の水準を超える前に、睡眠及び疲労の状況を客観的に確認し、疲労の蓄積が確認された者については月100時間以上となる前に面接指導を行うこと等を義務付けています。また、A水準については、当月の時間外労働実績が80時間超となった場合に、睡眠及び疲労の状況の確認を行い、疲労の蓄積が確認された者について100時間以上となる前に面接指導を実施することとされています。疲労の蓄積が確認されなかった者については、100時間以上となった後での面接指導でも差支えないとされています。いずれにしても、月80時間を超え月100時間未満の段階での専門医の面接指導が不可欠ということになりそうです。

イ 就業上の措置

「就業上の措置」は、いわゆるドクターストップを含むものであり、面接指導した専門医が、対象医師の勤務実態や健康状態を踏まえて行うものです(B水準を超える時間外労働は許されないのですから、就業上の措置による当該医療機関の医療業務の縮小については当該医療機関の問題としてだけではなく、当該地域の他の医療機関の協力を確保しながら‟地域医療提供体制全体の問題”として対処せざるを得ないとされています。)。さらに、1年の時間外労働時間の高い上限である1860時間を12か月で平均した時間数(155時間/月)を超えた際には、時間外労働の制限など、労働時間を短縮するための具体的な取組みを講ずることとなります。月155時間(年1860時間×1/12)を超える時間外労働は許されず、何らかの就業上の措置が求められ、かつ、必ず労働時間の短縮が要求されます。

以上の就業上の措置は、面接指導を受けた医師の健康状態に応じて実施した専門医が検討するものでありますが、医師の勤務実態を踏まえた例示として、以下のようなものが挙げられています。

(就業制限・配慮)※当直・連続勤務の禁止、※当直・連続勤務の制限(〇回/月まで)、※就業内容・場所の変更(外来業務のみ等)、※時間外労働の制限(〇時間/週まで)、※就業日数の制限(〇日/週まで)、※就業時間を制限(〇時〇分~〇時〇分)、※変形労働時間制又は裁量労働労働制の対象から除外

(就業の禁止)〇日間の休暇・休業