No.58/職場でのハラスメント(組織で働く人たちが知っておくべきこと!) その5

No.58/2021.10.15発行
弁護士 福﨑博孝

職場でのハラスメント(組織で働く人たちが知っておくべきこと!) その5
- セクハラ等防止指針に示されたセクハラ・マタハラ・パタハラの行動類型 -

5.セクハラ等防止指針に示されたセクハラ・マタハラ・パタハラの行動類型

パワハラが厚労省の指針(パワハラ防止指針)によって類型化されているのと同様に、セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)、マタニティハラスメント(以下「マタハラ」)、パタニティハラスメント(以下「パタハラ」)もセクハラ等防止指針によって類型化されています。この点についても、参考のために以下のとおり説明させていただきます。

(1)男女雇用機会均等法上の「セクシュアルハラスメント」(セクハラ)

(Ⅰ)セクハラとは

職場におけるセクハラは、職場において行われる①労働者の意に反する「性的言動」に対する労働者の対応により労働条件に不利益を受けたり、②「性的言動」により職場環境が害されることを意味します(男女機会均等法11条)。 ここでいう「性的言動」とは、「性的な内容の発言」及び「性的行動」を指します。 そして、「性的な内容の発言」としては、〇性的な事実を尋ねること、〇性的な内容の情報(噂)を流布すること、〇性的な冗談やからかい、〇食事やデートの執拗な誘い、〇個人的な性的体験談を話すこと等があります。 また、「性的行動」としては、〇性的な関係を強要すること、〇必要もなく身体へ接触すること、〇わいせつ図画を配布・掲示すること、〇強制わいせつ行為、〇強姦(強制性行為)等があります。

(Ⅱ)セクハラ言動の具体例(「対価的」と「環境型」)

また、職場でのセクハラ(言動)には、「対価型」と「環境型」があります。

(ⅰ)対価的セクハラ

対価型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外など、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。 その典型的な例としては、以下のようなものがあります。 ア 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること。 イ 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること。 ウ 営業所内において事業主が日ごろから労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること。

(ⅱ)環境的セクハラ

環境型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快となったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。 その典型的な例としては、以下のようなものがあります。

ア 事務所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。

イ 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事に手がつかないこと。

ウ 事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

(ⅲ)判断基準

セクハラの状況は多様であり、判断に当たり個別の状況を斟酌する必要があります。また、「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境が害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となることを考えると一定の客観性が必要です。一般的には意に反する身体接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得ます。継続性又は繰り返しが要件となるものであっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」又は「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されていると判断することができます。被害を受けた労働者が女性である場合には、「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。

(2)男女雇用機会均等上の「マタニティハラスメント」(マタハラ)

(Ⅰ)マタハラとは

職場における妊娠、出産等に関するハラスメント(以下「マタハラ」)には、上司又は同僚から行われる以下のものがあります(男女機会均等法11条の3。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づくものについては、マタハラに該当しません。)。

(ⅰ)その雇用する女性労働者の労基法上の休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置(以下「制度等」)の利用に関する言動により就業環境が害されるもの(制度等の利用への嫌がらせ型)

(ⅱ)その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの(状態への嫌がらせ型)

(Ⅱ)マタハラの具体例

(ⅰ)制度等の利用への嫌がらせ型

「制度等」とは、①妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置、②坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限、③産前休業、④軽易な業務への転換、⑤変形労働時間制がとられる場合における法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業務の制限、⑥育児時間などであり、その典型的な例としては、以下のようなものがあります。

(ア)女性労働者が、制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の請求等をしたこと、または、制度等利用をしたことにより、上司が当該女性労働者に対し、解雇その他の不利益な取り扱いを示唆すること。

(イ)女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等をしないよう言うこと。

(ウ)女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等を取り下げるように言うこと。

(エ)女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨同僚に伝えたところ、同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該請求等をしないよう言うこと。

(オ)女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該支給等を取り上げるよう言うこと。

(カ)制度等を利用したことにより嫌がらせをすること。例えば、女性労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ言動、業務に従事させない、専ら雑務に従事させるなど)をすること(当該女性労働者がその意に反することを当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む。)。

(ⅱ)状態への嫌がらせ型

「状態」とは、①妊娠したこと、②出産したこと、③坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと、④産後の就業制限の規定により就業できず又は産後休業をしたこと、⑤妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したことなどであり、その典型的な例としては、以下のようなものがあります。

(ア)解雇その他不利益な取り扱いを示唆すること。例えば、女性労働者が妊娠等をしたことにより、上司が当該女性労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いを示唆すること。

(イ)妊娠等をしたことにより嫌がらせ等をすること。例えば、女性労働者が妊娠等したことにより、上司又は同僚が当該女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること。

(3)育児・介護休業法上の「パタニティハラスメント」(パタハラ)

(Ⅰ)パタハラとは

職場における育児休業・介護休業等(以下「育児休業等」)に関するハラスメント(以下「パタハラ」)とは、上司又は同僚から行われる、その雇用する労働者に対する「制度等」の利用に関する言動により就業環境が害されることをいいます(育児・介護休業法10条。ただし、パタハラはハラスメント対象者が男性であるときに使われ、女性のときや女性を含めるときには「育児・介護に関するハラスメント」といいます。)。

(Ⅱ)パタハラ言動の具体例

「制度等」とは、①育児休業、②介護休業、③子の看護休暇、④介護休暇、⑤所定外労働の制限、⑥時間外労働の制限、⑦深夜業務の制限、⑧育児のための所定労働時間の短縮措置、⑨始業時刻変更等の措置、⑩介護のための所定労働時間の短縮措置などであり、その典型的な例としては、以下のようなものがあります。

(ⅰ)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

労働者が、制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の申出等したこと又は制度の利用をしたことにより、上司が当該労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いを示唆すること。

(ⅱ)制度等の利用の申出等又は制度等の利用を阻害するもの

(ア)労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等をしないように言うこと。

(イ)労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等を取り下げるように言うこと。

(ウ)労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等をしないよう言うこと。

(エ)労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等を撤回又は取下げるよう言うこと。

(ⅲ)制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの

労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること。