No.52/職場でのハラスメント(組織で働く人たちが知っておくべきこと!) その2
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No.52/2021.9.1発行
弁護士 福﨑博孝
- ハラスメントの概念とその分類 -
2.ハラスメントの概念とその分類
(1)ハラスメントとは
‟ハラスメント”は、本来的には「いじめ、嫌がらせ」のことを意味します。 行為者本人の認識の有無には関係なく(すなわち、「故意」があろうがなかろうが)、「相手を不快にさせたり、尊厳を傷つける(傷つけられたと感じさせる)発言や行動をとったり、不利益を与えたり、脅威を与えること」などの‟相手(被害者)の意思に反する言動”を指し、そのことによって、「相手方を精神的に傷つけたり、あるいは、職場環境等を悪化させたりすること」を意味します。もちろん、その果てには暴力・傷害・脅迫などの犯罪行為に行き着くこともあり、ハラスメント(パワハラ等)が暴言・暴力までも含めた意味で使われることが多くなっています。むしろ、社会問題化しているハラスメントは、暴言・暴力にまで行き着いた又は行き着く可能性のあるものを意味することも多くなっているようです。 ハラスメントとはそもそも、「いじめや嫌がらせ」、「苦しめることや悩ませること、迷惑」などを意味していますから、日常の人間関係の中における他者に精神的苦痛や身体的苦痛、精神的損失や物理的損失を与える結果となる行為を指すことになります。しかし、一般的には、定量的かつ厳密な定義は存在せず、「ある行為を、ある者が不快に感じれば、その者にとってその行為はハラスメントということになる」ともいわれています。 もっとも、裁判所でハラスメントとしての違法性が認められるためには、それなりの「客観性」が求められることになるのはやむを得ないところであり、このような(客観性を求める)考え方は厚労省も同様であって、後述する厚生労働省告示第5号(以下「パワハラ防止指針」という。)でも同様の取扱い(パワハラになるかどうかを「平均的な労働者の感じ方」で判断しようとする取扱い)をしています。いずれにしても、ハラスメントとは、行為者本人に故意があろうがなかろうが、そのことには関係なく成立するものとされています(‟ハラスメントを無意識で惹き起こしてしまいそうな人たち”は、このことを絶対に忘れないで下さい!)。
(2)ハラスメントの分類
ところで、ハラスメントとは「一般的な概念」であり、それ自体は「法律的な概念」(法的な定義がある)というわけではありません。そしてそれこそ、今では様々のハラスメント形態が提案・提示されており、一説には35種類、また他説では45種類のハラスメントがある等と言われています(現実には、その数を超えてしまうくらいのハラスメント形態が通称化されつつあります。)。
その中で、一般的に社会問題化しているハラスメントと言えば、①パワーハラスメト(パワハラ:立場や権力や階級といった上下関係〔権力、力などによる優位性・優越性〕を利用し、おおよそ下位に当たる者に対して本人の意思に反することを強要すること。この点については、2019年(令和元年)5月29日に成立したパワハラ防止法(いわゆる「労働施策総合推進法」、以下同じ。)で法的な定義が定められ、2020年(令和2年)1月15日に策定された厚生労働省告示第5号(いわゆる「パワハラ防止指針」)においてその詳細が説明されています。)、②セクシュアルハラスメント(セクハラ:相手の「性」に対する嫌がらせ、又は個人・集団を問わない「性的ないじめ」のこと。この点については、男女雇用機会均等法11条に明記されています。)、③マタニティーハラスメント(マタハラ:妊娠や出産を控えた者又は経験者に対して行われる嫌がらせのこと。多くの場合は仕事に関係し、職場において上位の者や同僚から退職へと追いやられるといった不当な扱いを受けること。この点については、男女雇用機会均等法11条の2に明記されています。)、④パタニティハラスメント(パタハラ:育児のために休暇や時短勤務を希望する主に男性職員に対する嫌がらせのこと(女性職員に対してはパワハラやマタハラになることもある。)。この点については、育児・介護休業法10条に明記されています。)、⑤ドクターハラスメント(ドクハラ:一般に医師を含めた医療者が患者・家族に対して不当な態度や言動を行い、悪意の有無に関わらず患者に不快を感じさせること)、⑥ペイシェントハラスメント(ペイハラ:ドクターハラスメントの逆のパターンであり、患者・家族が医療者に対し、正当な医療行為を妨害するいじめ・嫌がらせなどの行為をすること。要するに、モンスターペイシェント・モンスターペアレンツは典型的なハラスメントということになります。)、⑦カスタマーハラスメント(カスハラ:消費者による自己中心的で理不尽な要求や悪質なクレームなどの迷惑行為のこと)、⑧ジェンダーハラスメント(ジェンハラ:「男だから仕事は義務」、「女だから家事・育児が義務」などという、性別によるステレオタイプな性差別が行われること)、⑨モラルハラスメント(モラハラ:個人が有する常識や社会的モラルを他人の意思に反して強要することの総称)、⑩アカデミックハラスメント(アカハラ:学術研究の場における教育上・研究上の権力を利用したいじめや嫌がらせのこと。なお、キャンパスハラスメントというときには、アカハラだけではなく、職員間ハラスメント、職員から学生へのハラスメント、学生から職員へのハラスメントなども含まれる。)等があります。⑪スクールハラスメント(スクハラ:学校内で行われるいじめ嫌がらせなどの相手方に精神的苦痛を与える行為であり、職員間のハラスメント、生徒間のハラスメント、教職員等から生徒へのハラスメント、保護者から教職員へのハラスメントなどがある。)
これらのうち、②セクハラ、③マタハラ、④パタハラは、労働法制上も法律(男女機会均等法、育児・介護休業法)によって規制されていました(事業者に防止措置義務を課していました)が、①パワハラは厚労省の通達的な規制(円卓会議による報告書)はあっても法規制がありませんでした。しかし、2019年5月29日に成立したパワハラ防止法によってパワハラが定義化され、規制されることとなったのです(なお、2020年(令和2年)1月15日に策定されたパワハラ防止指針では、その定義が具体的に説明されていますが、⑦カスハラについても、近時の働き方改革の議論の過程でその問題性が厚労省で議論されるようになり、同指針でもその点に言及されています。また、⑥ペイハラについても厚労省はカスハラと同様の取扱いをしようとしているようですし、⑤ドクハラ、⑩アカハラ、⑪スクハラについてもパワハラ防止法の法規制の射程に入ってきているようです。)。 いずれにしても、法律による規制のあるセクハラ、マタハラ、パタハラ、パワハラについては、法的な意味のある定義又はそれに近いものが存在します。したがって、当該言動のパワハラ該当性、セクハラ該当性を検討する場合には、この法的な意味での定義に該当するか否かを検討する必要があります。