No. 150/病院・クリニックに対する嫌がらせ目的でのネット上の口コミへの対応~複数の裁判例を踏まえた、発信者情報開示請求手続きの実情~

No. 150/2024.3.1
弁護士 福崎 龍馬

病院・クリニックに対する嫌がらせ目的でのネット上の口コミへの対応
~複数の裁判例を踏まえた、発信者情報開示請求手続きの実情~

1 はじめに

(1)ネット上の誹謗中傷

 ネット上の誹謗中傷については、誹謗中傷を書かれた個人が自殺するなど社会問題となっていますが、事業者(病院・クリニックを含む)に対するSNSや、口コミサイト、グーグルマップ等への、嫌がらせ目的での書き込みも、大きな社会問題となっています。
 事業者に対する嫌がらせ目的の口コミの開示や削除請求は、個人に対する誹謗中傷の書き込みより、対応が困難であることが多いとされています。今回は、事業者に対する嫌がらせ目的での書き込みに関する裁判手続きの実情について、病院・クリニックに関する裁判例を引用しながらご説明したいと思います。

(2)ネット上の誹謗中傷に対して、民事上の責任追及をするまでの流れ

前提知識として、ネット上で、誹謗中傷等の投稿者に対し、民事上の責任を追及をする(=損害賠償請求訴訟など)流れ説明します。
 手続としては、全部で3段階あります。①まず、コンテンツプロバイダ(旧Twitter(現「X」)、Facebook、5ちゃんねる、爆サイ等のサイト管理者)に対して、プロバイダ責任制限法に基づき、IPアドレス(ネット利用者の、ネット上の住所のようなもの)の開示を求めます。もっとも、IPアドレスの開示を受けたとしても、IPアドレスだけでは、個人を特定することはできません。②次に、IPアドレスから、当該投稿者がどのアクセスプロバイダ(OCN、So-net、NTTドコモ、ソフトバンク等、一般的に「プロバイダ」「ISP」と呼ばれる事業者)と契約しているかを調べることができますので(「Whois」とうネット上のサービス等を使います。)、判明したアクセスプロバイダに対して、氏名・住所等の開示を求めます(当然、プロバイダは、契約者情報として、氏名・住所等の情報を持っています。)。③最後に、特定された氏名・住所をもとに、投稿者に対して、損害賠償請求訴訟を提起することになります。
 本稿では、①②に関する裁判手続きの実情をご説明するものであり、当該手続きに関する裁判例を取り上げます。

2 東京地裁平成15年3月31日判決(眼科医事件・請求認容(開示) 以下「平成15年東京地判」)

(1)事案の概要

 Xは、A眼科という名称で全国各地において眼科を診療科目とする病院を運営する医療法人であるところ、Yが運営する、インターネット上の電子掲示板において、訴外Bより、「Xが3名を失明させた」等の書き込みがなされました。これについて、Xは、名誉棄損等を訴えて、IPアドレス等の開示を求める訴えを提起し、裁判所は、発信者情報の開示を認めました。ちなみに、本判決は、プロバイダ責任制限法に基づいて、発信者情報の開示を認めた、最初の裁判例になるそうです。

(2)判旨

 「名誉毀損行為を理由とする不法行為については、その行為が①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的に出た場合には、③摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為の違法性が阻却され、不法行為は成立しないものと解されているが、発信者情報開示請求訴訟においては、権利侵害要件の充足のためには、当該侵害情報により原告(被害者)の社会的評価が低下した等の権利の侵害に係る客観的事実のほか、当該侵害情報による侵害行為には、上記の①から③までの違法性阻却事由(名誉毀損行為を理由とする不法行為訴訟においては、上記の①から③までの事実がすべて証明された場合に、違法性が阻却されるものと解されている。)のうち、そのいずれかが欠けており、違法性阻却の主張が成り立たないことについても主張、立証する必要があるものと解すべきである。
 ・・・・以下、上記のような見地に立って、権利侵害要件の充足の有無について検討する。・・・

 ①「事実の公共性について」 本件事実は、Xが運営する病院における治療結果に関する事実であるところ、国民の病気治療等に重要な役割を果たしている病院における治療結果に係る事実は、公共性の高いものであるということができるから、本件事実は、公共の利害に関する事実であると認められる。

 ②「目的の公益性」 前記認定の本件メッセージの内容(とりわけ、「あのヤロー」との部分及び「お前のところは、去年三人失明させてるだろうが!」との部分の表現方法)及び訴外人のC理事長に対する電子メール等の内容(とりわけ、訴外人がいたずら心から本件メッセージを書き込んだと述べていること)にかんがみれば、本件メッセージの書込みが専ら公益を図る目的で行われたものではないことは明らかである。

 ③「本件メッセージの内容の真実性」 Xが運営する病院においては、これまで1万8000以上の症例について屈折治療を行ってきたが、失明等の問題となる合併症を起こしたことがないことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、本件事実が真実ではないことが認められる。
 以上のとおり、本件メッセージの内容は、Xの社会的評価を低下させるものであり、かつ、本件においては、本件事実が真実ではないこと及び訴外人による本件メッセージの書込みが専ら公益目的を図る目的で行われたものではないこと(違法性阻却事由が存在しないこと)が認められるから、本件メッセージの流通により少なくともXの名誉が侵害されたことは明らかというべきであり、権利侵害要件を充足するものと認めるのが相当である。」

(3)解説(名誉棄損における違法性阻却事由の主張立証責任)

 表現の自由との調和を図るために、他人の社会的評価を低下させるような発言・書込みであっても、①公共の利害に関する事実に係り(事実の公共性)、②専ら公益を図る目的に出た場合には(目的の公益性)、③摘示された事実がその重要な部分について真実であること(真実性)の証明があったときには、当該行為の違法性が阻却され、不法行為は成立しないものと解されています。この①~③を違法性阻却事由といいます。
 本稿1(2)記載の3段階の手続きのうち、③段階目の損害賠償請求訴訟の段階では、投稿者(訴えられた人)が、違法性阻却事由が存在すること(①~③の全部)を立証しなければなりません。一方で、①、②段階目の手続きでは、プロバイダ責任制限法の解釈として、書き込みをされた被害者側で、違法性阻却事由の不存在を主張立証しなければならないとされています(総務省総合通信基盤局消費者行政課著『プロバイダ責任制限法〔改訂増補版〕』65頁等)。本裁判例も、同様の判断を示しています。もっとも、被害者側としては、①~③のどれか一つについて、不存在を立証できれば、違法性は阻却されず、名誉棄損が認められることになります。
 本裁判例は、違法性阻却事由のうち、①事実の公共性については認めましたが、②③の目的の公益性・真実性が存在しないとの、被害者側病院の主張を認めて、開示請求が認められています。被害者の病院としては、①~③の違法性阻却事由のうち、どれか一つだけ不存在を立証したらいいだけなので、簡単なようにも見えますが、実際の裁判ではそうではありません。
 ネット上の誹謗中傷について著名な、神田知宏弁護士の著書でも「Googleのクチコミのようなレビューは、投稿者の何らかの体験に基づく感想だと推測されるため、違法性を主張立証することは通常困難です。体験自体が虚偽だ(体験していない)と主張するほかありません。 」(神田知宏著『インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式』59頁)とされています。
 以下では、3で、違法性阻却事由の不存在を立証できず請求棄却(不開示)となった裁判例を、4で違法性阻却事由の不存在を立証でき、請求認容(開示)となった裁判例を紹介したいと思います。

3 東京地裁令和2年12月4日判決(眼科医に対する口コミの事案・請求棄却(不開示))

(1)事案の概要

 Xは、A眼科(以下「本件眼科」という。)及びB眼科を開設・経営する医療法人であるところ、「●●マップ」(おそらくグーグルマップ?)という、地図上の施設に対する評価や意見といった「クチコミ」の投稿・閲覧機能を備えているサイトにおいて、ある投稿者が、本件眼科について、星を1つ付した上で(5つまで付すことができる。)、「医師が一方的に早口で説明し、その場ではとても質問できる状態ではなく、次回受診の際、聞きたいことを尋ねたら、威圧的に大声で怒鳴った。検査のために立っている看護師達が患者の悪口を言っていたり、受付の態度が丁寧でなく、どんなに立派な機械があっても二度と行きたくない。本当は星をつけたくないけど、1つつけないと投稿できないので仕方なく。」との書き込みを行いました。この書き込みについて、Xは、接続プロバイダであるYに対して、発信者情報の開示を求めましたが、請求棄却となった事案です。

(2)判旨

 「法4条1項1号所定の「権利が侵害されたことが明らかである」との要件については、Xにおいて、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の不存在を立証すべきものと解される。・・・
 証拠によれば、本件投稿者は、法4条2項に基づきYに提出した「本件意見書」において、・・・以下のとおり説明していることが認められる。
「数年前、目の具合が悪くA眼科を受診。検査、診察後、ある目の病気を指摘され、それに対する対処法などを早口で次から次へと話され、質問することができなかった。その後、数回診察を受けたが、慌ただしい診察で、質問することができなかった。次の受診の際、意を決して、自分の目の状態について質問したら、「あなたより他にもっとひどい患者なんていくらでもいるんだよ!」など、早口で威圧的な強い口調で、今までより大きな声で言われ、ショックで帰りに、発作が起きてしまった。(具体的に病名を記すと、個人特定に繋がりやすくなるため、伏せさせていただきます)このA眼科での出来事の内容はかかりつけ医に当時話しをしてあります。」「しかし、病院は、具合が悪く、弱っている時に助けを求める場所であり、医療機関の選別にあたって、医師の態度は威圧的でないかどうか、説明がわかりやすいかどうかは、重要な1つのポイントだと思います。そして、自分と同じ病気をもった人達の中には、医療従事者の態度などで、再発したり、発作を起こしやすくなるため、特に重要なことです。」
 本件眼科の医師ら及び看護師は、陳述書において、患者への説明・対応において、十分な配慮をして丁寧に行っている旨陳述している。他方で、本件投稿者は、本件意見書において、前記のとおり陳述しており、本件意見書の内容は、明らかに虚偽の事実や矛盾が含まれていると認められるものではないから、一応の信用性があるものというべきである。
 そうすると、上記各陳述書を根拠として、本件記事の内容の真実性(要件③)及び公益目的(要件②)の各要件について違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の不存在が立証されたものということはできない。
 ・・・小括 違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の不存在が立証されたと認めることができないので、本件記事の流通によってXの権利が侵害されたことが明らかであると認めることはできない。」

(3)解説

 本裁判例では、開示を求める病院が、違法性阻却事由の要件の①~③の全てについて、不存在を立証できていないということで棄却されています。そもそも、要件①の事実の公共性については、明確に判示すらされていません。平成15年東京地判では「国民の病気治療等に重要な役割を果たしている病院における治療結果に係る事実は、公共性」が高いと示しているように、病院に関する口コミは、公共の利害に関する事実(要件①)と認めるのが裁判所の趨勢ですので、病院側としては、そもそもこの点を争っていなかったのではないかと思われます(病院に限らず、事業者の事業活動に関する口コミ一般について、事実の公共性が認められる傾向にあります。)。
 次に、目的の公益性(要件②)ですが、平成15年東京地判では、「本件メッセージの内容(とりわけ、「あのヤロー」との部分及び「お前のところは、去年三人失明させてるだろうが!」との部分の表現方法)」という表現方法に着目して、目的の公益性を否定しています。「バカ」とか「あのヤロー」等、表現方法が攻撃的なものは、公益目的が否定される傾向にありますが、一方で、本件では、そこまでの表現はなされておらず、要件②の不存在の立証もできていない、とされています。
 最後に、真実性(要件③)ですが、これについても、真実でないことの立証はできていない、と認定されています。前述の、神田知宏弁護士の著書記載のように、「体験自体が虚偽」だと立証しなければならず、病院側としては、どこの誰ともわからない、ネット上の口コミを投稿した人について、『その人は、病院に来ていない!!』ということを立証しなければならないということになりますので、立証が難しいことは容易に理解できると思います。

4 東京地裁令和3年12月23日判決(クリニックに対する口コミの事案・請求認容(開示))

(1)事案の概要

 Xは、名古屋市在住の医師であり、「Aクリニック」との名称の病院(以下「本件病院」という。)で院長を務めているところ、Yが運営するインターネットで閲覧可能な地図検索サービス「●●」(以下「本件ウェブサイト」という。おそらくグーグルマップ?)において、氏名不詳者より、本件ウェブサイトの口コミ投稿機能により「朝1番はドクターの機嫌が悪い日が多い気がしますのでおススメしません。本日も患者さんが2人遅刻されたようでとても御立腹でございました。僕の診察には全く関係のないお話でございます。患者からドクターへの気遣いを欠かすことが出来ません。医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」との投稿がなされました。
 本件は、XがYに対して、当該氏名不詳者の氏名等の情報の開示を求めた事案であるところ、裁判所は、開示請求を認めました。

(2)判旨

 「そこで検討するに、本件ウェブサイトの性質やXが医師であることのほか、本件投稿の内容に照らせば、本件投稿には公共性及び公益目的があるといえる(要件①、②)。
 次に真実性(要件③)について検討すると、本件投稿は、その記載内容に照らし、本件投稿者が本件投稿の当日に本件病院を受診したことを前提とし、前記1(1)で説示した摘示事実を摘示するものである。しかし、本件投稿は、令和元年10月7日(月曜日)に投稿されたものであるところ、本件病院は毎週日曜日と月曜日が休診日であるから、本件投稿者が、本件投稿がされた日に本件病院を受診したとは認められない。そうすると、本件投稿は、他の口コミ等の内容を参考とするなどして、本件病院を受診していないにもかかわらず、本件病院を受診したとの事実を前提として投稿されたものと考えざるを得ない(要件③)。・・・以上に照らすと、本件投稿者が本件病院を受診した際に経験した事実を基に本件投稿をしたといえるかについては疑義があると言わざるを得ず、本件投稿における前記の摘示事実が真実であることを窺わせる事情があるということはできない。」

(3)解説

 本裁判例では、事実の公共性、目的の公益性(要件①②)については、あっさり認められてしまっていますが、書き込みの内容が、「本件病院の休診日に、本件病院を受診した」かのような内容となっているため、真実性(要件③)の不存在の主張立証が成功しています。

5 まとめ

 これまでの裁判例から、事業者に対するネット上の口コミへの開示請求は、ハードルが高いことが分かっていただけたかと思います。もっとも、絶対に開示請求ができないというわけではなく、表現方法が悪質であったり、口コミが虚偽の体験であることが立証できる場合には、違法性阻却事由の不存在の立証が可能となり、開示請求できる可能性が出てきます。
 軽微な悪口程度の口コミでは、なかなか難しい場合が多いですが、内容があまりにもひどい時には、弁護士に相談することを検討してみてください。