No. 147/パワハラ加害者にならないための「心得帳」 (その4)- (無意識にパワハラをしてしまうパワハラ加害者のために!) -

No. 147/202.4.1.15発行
弁護士 福﨑博孝

パワハラ加害者にならないための「心得帳」 (その4)
- (無意識にパワハラをしてしまうパワハラ加害者のために!) -
参考資料【5】 パワハラ防止指針における「パワハラ6類型」
参考資料【6】 働きやすい職場をつくるために

参考資料【5】

パワハラ防止指針における「パワハラの類型」

1.‟職場での”パワハラの概念

2012年(平成24年)円卓会議パワハラ提言では、「職場でのパワハラ」について、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性・優越性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義付けしていましたが、2019年(令和元年)のパワハラ防止法では、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり、③労働者の就業環境が害される行為」とされています。「同じ職場で働く者に対して」を「職場において」と改訂したことによって、職場での職員間パワハラのみではなく、職員以外との間のカスタマーハラスメント(カスハラ)、ペイシェントハラスメント(ペイハラ)、下請けいじめ、ドクターハラスメント(ドクハラ)などもパワハラ防止指針でいう「パワハラ」に該当することになり、その意味は非常に大きいといえます。

2.パワハラ6類型について

(1)基本的な理解の仕方(総論)

厚労省のパワハラ防止指針では、職場におけるパワハラの代表的なパワハラ言動の類型として、下記の行為類型のとおり(イ)から(ヘ)の言動をかかげ(以下「類型(イ)」などと表現します。)、当該言動の類型ごとに、その典型例として『(ⅰ)(パワハラに)該当すると考えられる例』(以下「該当例」といいます。)と、『(ⅱ)(パワハラに)該当しないと考えられる例』(以下「非該当例」といいます。)の具体例を挙げています。そして、この点についての理解の仕方(考え方)を整理するとすれば、次のとおりになります。

ア パワハラ防止指針では、パワハラの各類型を「該当例」と「非該当例」とに分けて例示していますが、「該当例」と「非該当例」とは、その線引き(切り分け、区別)が非常に難しいといえます。
例えば、「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」は「パワハラに該当する」とされています(類型(ロ)該当例(ⅰ)③)。しかし一方で、「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても、それが改善されない労働者に対して一定程度強く注意すること」は「パワハラに該当しない」とされており(類型(ロ)非該当例(ⅱ)①)、その線引き(切り分け、区別)はそう簡単なことではないのです。いずれにしても、パワハラがこのように区別の難しい概念であることから、事業者側は、その組織の上司が部下を指導・教育・管理のために「叱る」「怒る」「叱責する」ということが出来なくなるのではないかとおそれているのです。したがって、この点についての解決策となる考え方を提示する必要があります。
そしてここでは、「叱る」「怒る」「叱責する」「怒鳴る」などという言葉(表現)の意味やニュアンスを切り分ける(区別する)ことが重要になってきます。すなわち、「叱る」と「怒る・叱責する・怒鳴る」とでは、その言葉の意味やニュアンスが違うように思えます。「怒る・叱責する・怒鳴る」は、‶非難する感情″が伴うことが多いので、それだけで許されないということになりかねません。しかし「叱る」の方は、「叱咤激励」という言葉があるように、「叱る」のほうが、感情的な言葉というよりも‶部下の指導というニュアンス″が強くなり、法的にも許容される(パワハラではないとされる)可能性があるように思えます。
しかしそもそも、私たちは業務上の指導や教育又は管理のために感情的になって「叱責する」とか「怒る」という必要なのでしょうか。確かに、上司の立場としては、「叱責する」「怒る」「怒鳴る」という部下の指導・教育・管理方法の方が簡単なのかもしれませんが、‶意を尽くして指示し丁寧に指導する技術や能力の修得″が必要なのではないか、という点をもう少し深く考えてみる必要があるようです。

イ 上記の類型(ロ)~類型(ヘ)の精神的攻撃類型については、各項目とも、該当例(ⅰ)と、非該当例(ⅱ)の違いに注目して下さい。すなわち、パワハラが肯定されている該当例(ⅰ)ではいずれも、感情が先走り、その言動の目的や動機に相当性を欠いています。特に、不当な目的をもっている場合などには、ほとんどパワハラが肯定されることになります。一方、非該当例(ⅱ)のパワハラが否定されている例示はいずれも、下位者(部下)を正しい方向へ導こうとする上位者(上司)の指導・教育・管理の確かな姿勢がみられます。
そしてここでも、「怒鳴る」「怒る」などの「叱責」と、「叱る」という言葉やニュアンスの相違にも注目する必要があります。この2つは同じ「叱」(しつ)という言葉が使われていますが、「叱責」とは、‶上位者が下位者の失敗や過ちをきつく非難して叱ること″となります。しかし、単なる「叱る」だと、‶相手をより良い方向に導こうとするために注意やアドバイスをすること″と説明できるのです。要するに、「叱責」はそれが激しければ激しいほど感情が前面に出ることになり、どこかで、指導・教育・管理の目的を見失い、手段・方法を逸脱させ、パワハラの要件である「業務上必要かつ相当な範囲を超える」こととなる可能性があるのです。その違いは、該当例(ⅰ)と非該当例(ⅱ)の線引き(切り分け、区分)にも影響を及ぼしています。
また、「叱咤激励」の「叱咤」は、「大声を出して叱る」という意味ではありますが、「激励」という言葉を付加することによって「相手のことを思って」という意味が加わり、感情的な側面が後退して、指導・教育・管理としての目的の色合いが強くなり、パワハラ傾向が弱まります。

ウ 以上のとおり、ここでのパワハラ6類型がどうして、‶パワハラの定義に該当するといえるのか″という点については理解しにくいところもあります。しかし、厚労省は、カスタマーハラスメントについて、そのハラスメント(カスハラ)の定義を定めており、その定義がパワハラを理解する上でも非常に参考になります。すなわち、令和4年2月に厚労省によって公表された「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」によれば、カスタマーハラスメント(カスハラ)について、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らし、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」(7頁)としているのです。したがって、パワハラにおいても、カスハラと同様に、『行為者の言動の目的(動機)の妥当性』、『その目的達成のための手段・態様の社会的相当性』が重視されるのであり、その目的や動機の妥当性、その目的や動機を達成するための言動(手段・態様)の社会的相当性が勘案されて、最終的に当該優位者の言動がパワハラに該当するか否かが判断されることになるといえます。

(2)パワハラ6類型のそれぞれの理解の仕方(各論)

(イ)暴行・傷害(身体的な攻撃) ☜【類型(イ)】

(ⅰ)該当すると考えられる例

      ① 殴打、足蹴りを行うこと。
      ② 相手に物を投げつけること。

(ⅱ)該当しないと考えられる例

      ① 誤ってぶつかること。

【解説】 この暴行・傷害のパターンでは、その性質上「故意による行為」のみしか対象となっておらず、類型(イ)非該当例(ⅱ)①のとおり「過失」によるものはパワハラに該当することはないものと思われます。
‟過失による(意図しない)精神的な攻撃がパワハラに該当すること”とは対照的な取扱いになっています。

(ロ)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃) ☜【類型(ロ)】

(ⅰ)該当すると考えられる例
    ① 人格を否定するような発言をすること。(例えば、相手方の性的指向・性自認に関する侮辱的な発言をすることを含む。)
    ② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
    ③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
    ④ 相手方の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること。

(ⅱ)該当しないと考えられる例
    ① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても、それが改善されない労働者に対して一定程度強く注意すること。
    ② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意すること。

【解説】 類型(ロ)該当例(ⅰ)②③と、非該当例(ⅱ)①②を比較してみて下さい。‶どこがどう違うのか…″と思われるかもしれませんが、該当例(ⅰ)は「厳しい叱責を繰り返し行う」「大声で威圧的な叱責を繰り返す」とされ、一方、非該当例(ⅱ)では「一定程度強く注意」とされているに過ぎないのです。
これは前述したとおり、該当例(ⅰ)①②は、指導・教育・管理しようとする上位者(上司)が部下に対し、感情的になり、その目的を逸脱し、その手段の相当性も欠いてしまっており、パワハラの定義でいう「業務上必要かつ相当な範囲を超える」こととなってしまっているのです。
これに対し、非該当例(ⅱ)の方は、それが‶一定の強い調子″であったとしても(「叱咤」は「大声で叱ること」を意味しますから、この範疇に入ると思われます。)、上位者(上司)が下位者(部下)をより良い方向に導こうとするために注意やアドバイスするという指導・教育・管理の程度を超えていないということなのです(「叱咤激励」の「激励」の部分があればパワハラとはいえないとも考えられます。)。
以上のとおり、前述した「叱責」と「叱る」(注意)の意味の違いを念頭に置いて考えてみると、その線引き(切り分け、区分)が理解できるはずです。
ただし、ここで注意して欲しいのは、該当例(ⅰ)も非該当例(ⅱ)も、あくまでも‶例示″であり、「該当例(ⅰ)②③程にひどい叱責でない限りパワハラにはならない」と思ってはいけないという点です。
現実の言動がパワハラになるかどうかは具体的な事情によって異なりますから、該当例(ⅰ)②③程ではなくても「パワハラに該当する」と判断される場合があるということに注意して下さい。

(ハ)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し) ☜【類型(ハ)】

(ⅰ)該当すると考えられる例
    ① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
    ② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立さえること。
(ⅱ)該当しないと考えられる例
    ① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
    ② 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。

【解説】該当例(ⅰ)②はいわゆる集団でのシカト(無視・仲間外し)ですが、集団でなくても上位者(上司)が下位者(部下)をシカト(無視・仲間外し)すると多くの場合パワハラ該当性が肯定されることとになりかねません(上司のシカトは、他の部下が追従してしまうことも多く、その影響は重大です。)。
また、下位者(部会)が上位者(上司)をシカト(無視・仲間外し)する場合においては、下位者(部下)が集団でシカトする場合のみがパワハラと認定されることになりそうです(いわゆる「逆パワハラ」「逆ハラ」です。)。
また、該当例(ⅰ)①②の場合には、当該行為の目的に相当性がないどころか、不当な目的といわざるを得ない場合であり、しかも、部下などを良い方向へ導こうという意図が認められませんから、管理職の適切な指導・教育・管理行為とは到底言えないということになり、パワハラ該当性が肯定されます。
非該当例(ⅱ)を見てもらったら分かると思いますが、上位者が下位者を良い方向に導こうとする目的が明確であまた、その手段や方法にも妥当性が認められる場合にはパワハラ該当性が否定されることとなります。

(ニ)業務上明らかに不当なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求) ☜【類型(ニ)】

(ⅰ)該当すると考えられる例
    ① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
    ② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま、到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
    ③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
(ⅱ)該当しないと考えられる例
    ① 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
    ② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。

【解説】 該当例(ⅰ)①②③のパワハラが肯定されている例示はいずれも、その業務命令等の動機や目的に相当性を欠いています。また仮に、正しい目的や動機があったとしても、その手段や方法が相当性を逸脱していたらパワハラに該当することになります。特に、該当例(ⅰ)①③のように不当な目的をもっている場合などには、ほとんどパワハラが肯定されることになります。
一方、非該当例(ⅱ)①②のパワハラが否定されている例示はいずれも、部下等を正しい方向へ導こうとする指導・教育・管理の姿勢が見られる場合であり、かつ、その手段や方法もその相当性を逸脱するとまではいえません。
以上のような考え方で、該当例(ⅰ)①②③と非該当例(ⅱ)①②をみていけば、自ずとその線引き(切り分け、区分)の妥当性が理解できると思います。

(ホ)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求) ☜【類型(ホ)】

(ⅰ)該当すると考えられる例
    ① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
    ② 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
(ⅱ)該当しないと考えられる例
    ① 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。

【解説】 該当例(ⅰ)①の「管理職を退職させるため誰でも出来る業務を行わせる」、同②の「気に入らない労働者に対して嫌がらせで仕事を与えない」という上位者(上司)の行動は、その目的が不当なばかりか、その手段(仕事を与えない)も許し難いものであって相当性を著しく欠きます。
しかし、当該下位者(部下)が、本当に仕事ができず、むしろ仕事をさせると関係者を危険に陥れる等という事情があれば問題は複雑になります。このような場合に上位者は当該労働者に仕事を与えないという選択があり得るかもしれませんし、特に危険な業務などではそうせざるを得ないことも多いかもしれません。しかし、そのような場合であっても、それに対する代替措置を考えていないと、パワハラ行為であるとして訴えられるかもしれません。当該部署での仕事はさせられない場合でも、ほかの部署で業務可能な仕事を組織として見つけてやる等の代替措置が非常に重要になってきます。

(ヘ)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害) ☜【類型(ヘ)】

(ⅰ)該当すると考えられる例
   ① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
   ② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ず他の労働者に暴露すること。

(ⅱ)該当しないと考えられる例
   ① 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒヤリングを行うこと。
   ② 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。

【解説】該当例(ⅰ)②を見ていただければ分かると思いますが、組織内(職場)での「噂話し」であっても、パワハラになる可能性があります。「機微な個人情報」と表現していますが、‟本人が嫌がる情報”を暴露することによってパワハラが成立すると考えておいた方がいいと思います。パワーハラスメント(パワハラ)という言葉のイメージとは逆に、ソフトなハラスメントでも、それが陰湿で相手方を精神的に追い詰めるようなものであればパワハラに該当することもあるということなのです。
この点で言うと、例えば、「性的指向・性自認(LGBTQ)等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ず他の労働者に暴露すること」を「アウティング」ということがありますが、実際に、保険代理店に勤務していた20代男性が上司による性的指向の暴露に遭い、そのことが原因となり精神疾患を発病したということで令和4年3月に労災として認定されているようです(西日本新聞令和5年7月25日)。要するに、アウティング(個人の性的指向などの暴露)は「個の侵害」というパワハラ類型に該当するのであり、労働者の触れられたくない事実を噂として流されることはパワハラに該当し、そのことが原因で被害者が労災認定を受けたり、また、加害者が慰謝料などの損害賠償請求を受けたりすることもあるということなのです。

参考資料【6】 

働きやすい職場をつくるために

1.令和2年8月、某病院の職員約1000人(医師・看護師その他コメディカル、事務職員など)に対しパワハラアンケートを実施し、約600人からの回答がありました。そこでは、回答者の約20%がパワハラを経験し、約30%が職場でのパワハラを目撃したと回答し、さらに、そのパワハラの類型を問うと、その全体の割合は、身体的攻撃が4%で、その他の精神的攻撃等が合計96%となっていました(病院などの組織でパワハラアンケートを実施しても、ほぼ同様の結果になっていると思われます。)。そして、パワハラとしての身体的攻撃は当該行為者が意図的に行うことは間違いないのですが、精神的攻撃等においては、当該行為者が意図していない(「パワハラになっていることを意識していない」、「故意がない」、「知らず知らずに」などという)場合が多いという現実があります。すなわち、パワハラ、セクハラ等のハラスメントは、その多くの場合において、職員が意図せずに(故意ではなく)犯してしまう違法行為の典型でもあるのです(これは、一般職員・幹部職員を問いません)。

2.しかしそれでも、このような加害行為をパワハラ防止法等の法律で規制してしまった以上、それを犯した職員への処分(懲戒処分等)も重いものとせざるを得ません。また、被害者から加害行為者への刑事告訴や損害賠償請求などの民事的対応も十分に考えられます。いずれにしても、ハラスメントの加害行為者に対しては、当該行為がそれを意図していなかったとしても、事業者はこれまでにも増して厳しい対応(重たい懲戒処分等)をとらざるを得なくなることを、職員自身も十分に銘記しておく必要があります。
パワハラ、セクハラ等のハラスメントは、職場での人間関係を破壊し、職場環境を劣悪化させます。劣悪化した職場環境での就労は、そこで働く職員らの精神を蝕んで追い詰めていきます。そこに長時間労働などの悪条件が加わると、職員の精神はますます病むに至り、それこそ自死(自殺)にいざなわれることさえもあります。職場で働く職員すべてがそのことを想像し自覚しておかなければ、働きやすい職場の実現など望むべくもないのです。

3.むかし、‟親の子に対する折檻”や‟教師の教え子に対する体罰”が「愛のムチ」と言われてほとんど許容されていた時代がありました。しかし現代社会において、これらが許容されることはほぼなくなり、欧米と同じように親の子に対する暴行、教師の教え子に対する暴力として刑事摘発されることも覚悟しなければなりません。同じように、上司の部下に対するパワハラ的な指導・教育・管理は、上司の部下に対する「愛情の表れ」と考える傾向はほとんどなくなりつつあります。
そして、パワハラ禁止・撤廃が進む中で、企業は、上司の部下に対する指導・教育・管理がどうあるべきなのか苦衷の中にあるようです。暴力までは使わないにしても、怒鳴る、叱る、しつこく指導する、などということがパワハラといわれかねない‟パワハラ防止法”、‟ILOハラスメント禁止条約”の下で、上司は部下をどう教育し指導し管理していくべきなのか。
しかし、事業者には、「業務命令権限」、「人事権限(人事評価権)」、「懲戒権限」、「普通解雇権限(勤務成績不良・協調性の欠如・業務命令不服従・精神疾患など)」など人事管理権限や労務管理権限があり、上司は部下に対し、それを権限行使することが可能なのです。これらの権限を濫用することは厳に慎まなければなりませんが、上司が部下を適切に指導し教育していくためには、やむを得ない場合においてこれらの権限を行使し、又は、それを背景とした指導・教育・管理のための対応も必要になるものと思われます。すなわち、声を荒げず、怒鳴りもせず、強く叱ることもせず、淡々と優しく指導し教育をしていくものの、そのような指導や教育に従わない時には、業務命令を発令しなければなりませんし、人事評価に反映しなければなりません。それでも、上司の指示に従わない時には、懲戒処分もあり得ますし、常識的な指導・教育・管理が不可能な部下である場合には普通解雇も許される場合があり得ます。それが組織におけるルールということではないでしょうか。
このように考えると、上司が部下を指導し教育し管理するときに、声を荒げることも、怒鳴り散らすことも、強くしかることも必要ないのかもしれません。冷静かつ優しく説明し説得して、指示に従わせる。それがダメなら、やむを得ないので、「あなたのリスクになります!」でいいのかもしれません。