No.128/‟判断能力・同意能力のない患者”についての医療行為の決定プロセス(その6)

No.128/2023.4.17発行
弁護士 福﨑博孝

‟判断能力・同意能力のない患者”についての医療行為の決定プロセス
(患者本人へのインフォームド・コンセントが尽きた先には何が必要なのか? 誰に何をどうすればいいのか?) (その6)

第5 未成年患者への医療行為の決定プロセス(インフォームド・コンセントとインフォームド・アセント)

1.子どもに対する医療行為とインフォームド・コンセント

未成年患者でも、当該医療行為に関して理解能力・判断能力を備えた未成年患者については、その同意能力を前提としたインフォームド・コンセント(IC)が行われなければなりません。すなわち、未成年患者の財産行為については親権者又は未成年後見人の同意が必要ですが、医療行為については、「自己の病状、当該医療行為の意義・内容、及びそれに伴う危険性の程度につき認識し得る能力」(いわゆる「同意能力」)があれば、必ずしも未成年患者に対する医療行為も親権や未成年後見に服するということにはなりません。少なくとも、同意能力の認められる未成年患者の同意権を無視し、親権者又は未成年後見人の同意のみによって医療行為を進めることは許されないのです。したがって、逆にいえば、判断能力・同意能力があれば未成年患者本人の同意のみで医療行為を行うことが可能なのですが、現実には、親権者の同意も合わせて求めることが多く、親権者や家族の立場を無視できません。すなわち、当該未成年患者の十分な理解と納得を得るためにも、親権者や家族の協力は不可欠であり、医療者としては、当該未成年患者への説明方法等を含めて親権者や家族に相談しながら進めることとなります。

2.判断能力・同意能力の有無を判定する‟年齢の目安”

以上からすれば、「同意能力のある未成年患者」と「同意能力のない未成年患者」とに分けて検討する必要があります。しかし、この点についての「年齢での明確な線引き」にはなかなか難しいものがあります。同意能力があるとまではいえないが、当該医療行為についての理解力はそれなりに認められる場合もあり、それこそ千差万別なのです。この点について一般的には、「10歳~12歳程度以上」(小学校の高学年以上)の精神的能力(認知機能)があれば「同意能力を認めてもよい」といわれることがあります。しかしこれは、親権者又は未成年後見人の事実上の同意がある場合を想定しています。また、親権者又は未成年後見人の同意がないにもかかわらず、「未成年患者の意向のみで医療行為を行うことができる場合」としては、一応の目安として「15歳~18歳(中学生から高校生)」という年齢が挙げられています。もっとも、未成年患者の医療行為についての同意能力については、医療行為の内容など具体的事情により異なることになり、より侵襲性・リスクの高い医療行為については、より高い認知機能(判断能力)が求められます。

3.インフォームド・コンセントと‟インフォームド・アセント(assent)”

(1)法定代理人の「同意代理」「代諾同意」

(ア)いずれにしても、理解能力・判断能力(認知機能)が十分でない未成年患者には同意能力は認められず、その同意(ICにおける同意)は親権者や未成年後見人(法定代理人)から得ることになります。そしてそれは、未成年患者本人の同意権を親権の下に置く「法定代理人としての権限」ということになりそうです。これを「同意代理」ということもありますし、また「代諾同意」ということもあります。そして、この親権者の同意代理・代諾同意の根拠は、子に対する身上監護権に求めることができ、実質的には、親は子どもの最善の利益を図る決定を下すものと想定されることや家族の自治の尊重によるものと説明されたりしています。また、判例・裁判例をみても、「同意能力がない未成年患者の場合には、親権者あるいは未成年後見人が、未成年患者に代わって同意することができる」ことを前提としているものと思われます(横浜地判昭和54・2・8、最判昭和56・6・19、京都地判平成17・7・12(【注20】)など)。

【注20】同意能力がない未成年患者の場合には、親権者あるいは未成年後見人が、未成年患者に代わって同意することができます。むしろ、親権者等の同意がなければ医療行為ができない、ということになります。そして、上記のとおり多くの裁判例が、そのことを前提としており、このうち京都地判平成17・7・12は、蕁麻疹の治療を受けた6歳の患者が准看護師によって医師の指示した塩化カルシウム注射液ではなく塩化カリウム液を静脈注射されたことにより急性心肺停止による低酸素脳症を発症して後遺障害を負った事案において、「本件においても、Y病院はX1に対して、上記診療契約に付随して、上記報告等をする義務を負っている。ただし、X1の本件医療事故当時の年齢(6歳)に照らせば、Y病院が上記報告等をする相手方は、実際上、X1の法定代理人であるX2(父)及びX3(母)ということになると考えられる。」と判示しています(なお、本判決は、当該准看護師に責任が認められたのはもちろんですが、医師が注射に立ち会うことすらせず注射事故の発生を防ぐべき注意義務に違反したとして不法行為責任を負わされています。)。

(イ)以上を前提としながらも、少し特殊な事例ではありますが、横浜地判昭和54・2・8(【注21】)では、共同親権者のうちの1人(母親)が医療者の説明内容を了解し同意していたかのようにみえても、他の1人(父親)がこれに明確に反対していた場合には、有効な承諾があったとはいえないと判示しているものもあります。

【注21】横浜地判昭和54・2・8は、「これ(下腿部皮植手術)を行うべき緊急性がなかったことは当事者間に争いがなく、かつ、患者がわずか6歳の小児でその父親が右手術の要否に疑問をもち、これに関する詳細な説明を医師に求めていたのであるから、特段の事情がない限り右父親ら両親の承諾を得た上で本件手術はなされるべきであり、そしてこれら特別の事情及び両親の承諾についてはこれを認めるに足りないから本件手術は違法であったというべきである。…母親が本件手術の直前に看護婦に対し右手術の承諾をしたことは前示のとおりであるが、患者の同意は医療行為の性質とこれに伴う危険性を十分認識したうえでなされることが必要であるところ、母親の承諾は本件手術の性質等を十分認識したうえでなされたものとは到底解されないから、これをもって本件手術につき親権者の承諾があったものということはできない。」と判示しています。いずれにしても、原則的には、親権の行使は共同で行うこととなっている(民法818条3項)のですから、父親が同意していないのに、母親の形ばかりの承諾を得て手術を行うことはリスクが大きすぎます。

(2)インフォームド・アセント(IA)

もっとも、未成年患者に同意能力が欠けていたとしても、未成年患者の意向や希望や価値観は尊重されなければなりません。そのような同意能力が認められない場合においても、その未成年患者の希望を尊重するという趣旨で、未成年患者からの「アセント(assent 了解、賛意)」を求めるということが推奨されています。 これらのインフォームド・コンセント(IC)とインフォームド・アセント(IA)との関係については、「日本医学会の医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」に関するQ&Aが参考になります。そこでは「被検者が概ね小学生の年齢の場合には、本人が理解できる範囲で分かり易い説明をし、(当該被検者から)IAを得ることを試みる。…被検者が概ね中学生かそれより上の年齢で同意能力のない場合には、本人が理解できる範囲で分かり易い説明をし、(当該被検者から)IAを得る。…被検者が概ね中学生より上の年齢で同意能力のある場合には、(当該被検者から)ICをとる。なお、保護者からはICをとる。」とされています。そしてこれは、医療行為一般について参考にすることができるはずです。いずれにしても、「IA」については、一般的に、「小児患者の治療に際して、医師が保護者からのICを得るのみではなく、当事者の子どもに対しても治療に関する説明をし、同意取得(アセント)を行うこと」などという説明がなされています。

(3)まとめ

以上をまとめると、①年中・年長頃までの幼児(児童福祉法では満1歳から小学校就学までの子)に対する医療行為については、当該幼児に医療行為についての同意能力がない以上、親権者が法定代理権の行使として医療者の説明を受けて同意をするということになるものと思われます(同意代理又は代諾同意)。しかし、②小学生くらいの年齢になると、同意能力まではないとしても、それなりの理解能力が認められるようになるでしょうから、未成年患者が理解できる範囲で分かり易い説明をしてIAをとり、親権者など法定代理人からもICを得るようにしなければならない可能性もあります。そしてさらに、③概ね中学生かそれより上の年齢の場合で、当該未成年患者に同意能力までは認められないときには、上記②と同様に当該未成年患者にIAを、親権者など法定代理人にICを実施することになります。一方、④概ね中学生かそれより上の年齢の場合で、同意能力が認められる場合には、当該未成年者からは十分な説明と理解・納得を得るという意味でのICが不可欠ということになりますが、それと伴に、特別の事情がない限り、(事実上)親権者など法定代理人への説明と理解・納得・同意(IC)も得る必要があると考えた方が無難であり、どちらか片方からの同意というのでは後々問題が生じます(また、以上の考え方は、知的障害をもつ障害者及び親権者・後見人等へのIC、IAを検討するときにも参考になると思われます。)。 なお、旧民法で成年年齢は20歳されていましたが、民法の改正によりそれが18歳とされ2022年4月1日から施行されました。成年年齢が引き下げられたことを考えると、これからはその同意能力もより低めの年齢で肯定されていくかもしれません。

4.‟判断能力・同意能力があると思われる未成年患者”への医療行為、その難しさ

(1)判断能力・同意能力のある未成年者へのインフォームド・コンセントと親権者

未成年者に同意能力が備わっていると思われる場合(上記3.(3)④ 概ね中学生かそれより上の年齢の場合)には、その未成年患者の同意を得る必要があります。そしてその前提として、当該未成年患者にICとしての説明を行う必要があります。しかし、親権者である親との関係では微妙な問題が生ずることがあるので注意を要します。すなわち、未成年患者に「自己の状態(病状など)、当該医療行為の意義・内容、及びそれに伴う危険性の程度につき認識し得る能力」(判断能力・同意能力)があると思われるにもかかわらず、自らの子どもが受ける精神的ショック(そのことによって、治療意欲の喪失、生きる意欲の喪失、治療拒否等につながる可能性等)を慮って、当該未成年患者へ正確に説明すること(ひいては、真の意味での「同意」を得ること)を拒絶する(少なくとも、躊躇する)親権者(親)が多いと思われるからです。そのような場合に、医療者はどう対応すべきなのか、という問題があります。 この点については、精神疾患を有する者に関し、自己の状態や診療行為の内容とその危険性を認識し得る程度の能力を有する場合には、精神障害福祉法の保護者に加えて患者本人にも説明する必要があり、それに基づいた同意を得る必要が生ずるとした裁判例(名古屋地判昭和56・3・6)があります。この考え方を形式的に当てはめると、判断能力・同意能力のある未成年患者についても、親権者とともにICの対象とし、その同意を得る必要があるという結論に必然的になりそうなのです。すなわち、上記名古屋地判では、「医療は生体に対する医的侵襲であるから、これが適法となるためには、患者の生命又は健康に対する害悪発生の緊急の恐れが存在するときなど特別の場合を除いて、患者の承諾が必要というべきで、患者の自己決定権に由来する右の理は、精神衛生法上の強制入院たる措置入院させられた精神障害者に対しても、右措置入院が当然には治療受任義務を強いるものではないことから適用され、さらに、同人が医師の説明を理解し、治療を受けるか否かの判断能力を有する場合には、患者本人の同意が必要であって、近親者の同意では足りないと解すべきであり、特に、精神外科の如き治療法は患者に与える影響の重大さから、より一層患者本人の同意が尊重されねばならないというべきである。」と判示しているのです。この裁判の事案では、‟精神疾患を有する者”と‟精神障害福祉法の保護者である近親者”との関係で論じており、未成年者と親権者との関係で論じているわけではありません。しかし、‟同意能力のある未成年者”と‟親権者”との関係もこれと似たような状況にあります。

(2)判断能力・同意能力のある未成年者の親権者への対応の難しさ

もっとも、事はそう簡単なことではありません。確かに、未成年患者であっても、判断能力・同意能力が備わっている以上、医療者は当該未成年患者にICを実施し、その同意を得る必要があるといえますが、その一方で、医療者が親権者と十分に協議し親権者の意見(当該未成年患者に説明するかどうか等の意見)を尊重しないと、患者を含む家族との信頼関係を壊しかねません。しかしそれでも、未成年患者に正確な情報を知らせないと、十分な医療行為ができない場合も考えられますから、親権者には、そのような点を十分に理解していただき‟未成年患者に説明し同意を得る”方向での判断をしてもらう必要があります。また、その方向での医療者の努力が必要なのです。
しかし、‟未成年患者に判断能力・同意能力が備わっているのかどうか”、また、‟正確な情報(正確であればあるほど未成年患者にとって残酷な内容となる可能性)を知ることによって、当該未成年患者にどのような心理的・精神的影響を与えるのか”等についての最終的な判断を医療者が行うのは難しいような気がします。むしろこのことは、親権者が行うべきことであって、親権者の方が的確な判断ができるはずです。したがって、医療者としても、最終的には親権者の判断に任せるしかない場合が多いと思われますし、同意書(【注9】)には親権者にサインしていただくということにもならざるを得ないことも多くなると考えられます。 その場合に医療者にとって重要なことは、‟親権者が未成年者へのICを最終的に拒絶した、その過程に医療者としてどのように関わったか(どのように親権者を説得し、その結果がどうだったのか等)”という点だと思います。親権者への十分な説明とその間の協議を経て、親権者の理解と納得の下に、同意能力のある未成年者に対しても十分なICを実施した上で、親権者とともに当該未成年者にも同意書にサインしていただく、というところにまで至ることが最も望ましいことだといえますが、そこまでには至らなくても(親権者が最終的に未成年者へのICを拒絶したとしても)、その説得の努力はしなければなりませんし、そのこと(医療者と未成年患者・その親権者との関りの過程)を目に見える形で診療記録に残さなければなりません。

(3)18歳成年年齢に達した患者へのICの難しさ

旧民法での成年年齢は20歳ですが、民法の改正によりこれが18歳とされ、2022年4月1日から施行されています。したがって、2022年4月1日からは18歳(高校3年生)で成年となり、彼らには親権者がいなくなります(親はいても親権者はいないのです)。しかし、18歳・19歳の子ども(成年に達した子)に対する親の感覚や考え方が早々に変わるとも思えません。上記(2)のような事態(親が18歳で成年に達した子の心理や精神を慮り、その子に対する医療者の詳しいICを拒否し、十分な説明を患者本人に施さないまま治療を受けさせようとすること等)もあり得るのではないでしょうか。しかし、患者は18歳・19歳とはいえ「成年」であることには変わりないのですから、医療者はその親に対し、成年年齢に達していること、成年者への直接のICは避けては通れないこと等を十分に説明して納得してもらい、成年年齢に達したばかりの当該患者に対しては、心理的・精神的ダメージを可能な限り与えないよう十分に配慮しながら、より注意深くかつ十分なICを実施しなければならないと思われます。もちろん、その際には、医療者と親が一緒になって当該成年に達したばかりの患者を精神的に支えなければならないのは当然のことです。