No.115/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その8)

No.115/2023.1.16発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その8)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№8】
-病院が具体的に取り組むべきペイハラ対策⑤-

❻ 従業員(病院職員)への配慮の措置(38頁)

病院職員がカスハラ(ペイハラ)の被害を受けた場合、速やかに被害を受けた‶職員に対する配慮の措置”を行う必要があります。対応すべき事項として、‶職員の現場での安全確保”や‶職員の精神面への配慮”があります。 厚労省が策定を推進した「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(以下「カスハラ対策マニュアル」)では、この点について、以下のようにまとめています。

【従業員(病院職員)の安全確保】

顧客等(患者家族)が、殴る、蹴る、物を投げるといった暴力行為や身体に触るといったセクハラ行為を行ってくる場合、従業員(病院職員)の安全確保を行わなくてはなりません。 具体的には、現場監督者(当該病院職員の上司)が顧客(患者家族)対応を代わり、顧客等(患者家族)から従業員(病院職員)を切り離す、状況に応じて、弁護士や管轄の警察と連携を取りながら、本人の安全を確保する等の対応があります。

【精神面への配慮】

顧客等(患者家族)からの言動により、従業員(病院職員)にメンタルヘルス不調の兆候がある場合、産業医や産業カウンセラー、臨床心理士等の専門家に相談対応を依頼してアフターケアを行う、または専門の医療機関への受診を促します。 その他、定期的にストレスチェックを行う等、従業員(病院職員)の状況を確認し、問題がある場合は産業医への相談を促す等、従業員(病院職員)の心の健康の保持増進を図ることが求められます。 また、従業員(病院職員)がセクハラを受けた際には、同性の相談対応者が対応する等、被害内容にあわせた配慮も必要です。

以上の措置(対応)については、病院など事業者が職員に対して負担する労働契約上の安全配慮義務として当然のことと考えてください。

❼ 再発防止のための取組み(39頁)

ペイハラ問題がいったん解決した後も、同様の問題が再発することが多くあります。したがって、一つのペイハラ事案が解決したとしても、同様の問題が再発することを防ぐための取組みを継続し、病院職員の患者家族対応理解を深めていく必要があります。 カスハラ対策企業マニュアルでは、この点について、以下のようにまとめています。

カスハラ(ペイハラ)の解決に当たって、発生した事案にただ対応するだけでは、最悪の場合、同じことが繰り返される可能性が残ります。カスハラ(ペイハラ)の再発防止は容易ではありませんが、従業員(病院職員)の接客態
度によりクレームがカスハラ(ペイハラ)に発展するようなケースについては、その接客対応(患者家族対応)の改善によって再発防止を図ることが可能です。

接客対応(患者家族対応)の改善のためには例えば次のような方法が考えられます。

【事案発生時の従業員(病院職員)への共有】

事案発生時には、可能であれば、従業員(病院職員)に対して何らかのメッセージ・情報の発信をするとよいでしょう。現場を預かる管理職が現場の従業員(病院職員)に注意喚起をするだけでも効果が見込まれます。それ以外に、接客対応(患者家族対応)に関する研修やEラーニングによる周知も方法としては考えられます。

【事例の活用】

社内(院内)事例ごとに検証し、あらたな防止策を検討し、毎年のトップメッセージやクレーム対応マニュアル、研修などの見直し・改善に役に立てることが望まれます。また、プライバシーに配慮しつつ、同様の問題が生じないように、社内会議等で情報共有することも大切です。

6.おわりに(51頁)

「カスハラ対策企業マニュアル」では、以下のとおり、51頁に「おわりに」と題してそのまとめが記載されています。これは、病院におけるペイハラ対策においても、十分に念頭に置いておくべきことだと思われます。

カスハラ対策(ペイハラ対策)を積極的に進めている企業(病院)はまだ少なく、取組みを進める企業(病院)も多くの課題を抱え、その解決に苦労しています。 その背景としては、ハラスメント行為者が顧客等(患者家族)であることで毅然と発言しにくいことや、カスハラ(ペイハラ)の定義や判断基準を明確に設けておらず、従業員(病院職員)にも周知しにくい、また、企業(病院)側の取組みのみならず顧客等(患者家族)の理解も必要でトラブルの解決を諦めている等、様々な要因が考えられます。 しかしながら、顧客等(患者家族)と従業員(病院職員)の関係であっても人格を持った人間同士であって、従業員(病院職員)の人格を侵害する行為は許されるものではありません。カスハラ(ペイハラ)は、従業員等(患者家族)の尊厳や心身を傷つけ、放っておくと従業員等(患者家族)の健康不良や精神疾患を招くこともあり、休職や退職に追い込まれ、貴重な人材の損失につながるおそれがあります。また、企業(病院)としても時間や金銭の損失にもつながり、職場全体の生産性にも影響を及ぼす可能性がある等、様々な悪影響を与え、見過ごすことはできません。 本マニュアルを通して、多くの事業主(病院)や関係者(病院職員など)にカスハラ(ペイハラ)の正しい理解が促され、接客等(患者家族対応)の現場におけるカスハラ(ペイハラ)の防止と適切な対応につながり、社会全体として意識が変わっていくきっかけにならなければと思います。

本マニュアルで述べられているとおり、病院でのペイハラ対策は一朝一夕に高いレベルに到達することはできません。各病院が組織的に病院職員に日々研鑽を積ませながら、現場での病院職員が経験を一つひとつ積み上げ、よりよいペイハラ対策を創り上げていくしかないといえます。そして、そのためにも、普段からペイハラ対策を意識しておく必要があり、そのことが次の段階のペイハラ対策につながっていくことになります。