No.109/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その5)

No.109/2022.11.15発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その5)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№5】
-病院が具体的に取り組むべきペイハラ対策②-

❸ 対応方法・手順の策定(25~34頁)

厚労省が策定を推進した「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(以下「カスハラ対策企業マニュアル」)では、「カスハラ(ペイハラ)を受けた際に慌てず適切な対応が取れるように、対応方法等をきめておくとよい」として、以下のようにまとめています(25頁)。

以下は、職場においてカスハラ(ペイハラ)を受けた場合の‶顧客(患者家族)への対応例”です。業種や業態、企業文化、顧客等(患者家族)との関係などによって各社(各病院)で対応方針が異なると思われますが、各社(各病院)の業務内容、業務形態、対応体制・方針等の状況にあわせて、あらかじめ対応方法を準備しておくことが重要です。 顧客等(患者家族)の行為には様々なパターンがあり、それぞれの状況に応じた柔軟な対応を想定しておくことが望まれます。状況によっては迅速な対応が求められるケースもあることから、あらかじめ様々な想定をしておくとスムーズに対応することが可能となります。 また、顧客等(患者家族)への対応は、「基本的には複数名で対応」し「対応者を一人にさせない」、「行為が深刻な場合は一次対応者に代わって現場監督者が対応する」等、従業員(病院職員)の安全にも配慮する必要があります。…顧客(患者家族)対応が不適切な場合、顧客(患者家族)の態度がエスカレートすることが想定され、どの従業員(病院職員)にも基本的な対応ができるよう教育しておくとよいでしょう。

そしてその上で、その具体的な対応例を挙げています(26~28頁)。

1.時間拘束型

長時間にわたり、顧客等(患者家族)が従業員(病院職員)を拘束する。居座りをする、長時間、電話をかける。

【対応例】 (患者家族の要望に)対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げる等の対応を行った後、膠着状態に至ってから一定の時間を超える場合、お引き取りを願う、または電話を切る。複数回電話がかかってくる場合には、あらかじめ対応できる時間を伝えて、それ以上に長い対応はしない。現場対応においては、顧客等(患者家族)が帰らない場合には、毅然とした態度で退去を求める。状況に応じて、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。

2.リピート型

理不尽な要望について、繰り返し電話で問い合わせをする、または面会を求めてくる。

【対応例】 連絡先を取得し、繰り返し不合理な問い合わせがくれば注意し、次回は対応できない旨を伝える。それでも繰り返し連絡が来る場合、リスト化して通話内容を記録し、窓口を一本化して、今後同様の問い合わせを止めるように伝えて毅然と対応する。状況に応じて、弁護士や警察への相談等を検討する。

3.暴言型

大きな怒鳴り声をあげる、「馬鹿」といった侮辱的な発言、人格の否定や名誉を棄損する発言をする。

【対応例】 大声を張り上げる行為は、周囲の迷惑となるため、やめるように求める。侮辱的発言や名誉棄損、人格を否定する発言に関しては、後で事実確認ができるよう録音し、程度がひどい場合には退去を求める。

4.暴力型

殴る、蹴る、たたく、物を投げつける、わざとぶつかってくる等の行為を行う。

【対応例】 行為者から危害が加えられないよう一定の距離を保つ等、対応者の安全確保を優先する。また、警備員等と連携を取りながら、複数名で対応し、直ちに警察に通報する。

5.威嚇・脅迫型

「殺されたいのか」といった脅迫的な発言をする、反社会的勢力とのつながりをほのめかす、異常に接近する等といった、従業員(病院職員)を怖がらせるような行為をとる。または、「対応しなければ、SNSにあげる、口コミで悪く評価する」等とブランドイメージを下げるような脅しをかける。

【対応例】 複数名で対応し、警備員等と連携を取りながら対応者の安全確保を優先する。また、状況に応じて、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。ブランドイメージを下げるような脅しをかける発言にも毅然と対応し、退去を求める。

6.権威型

正当な理由なく、権威を振りかざし要求を通そうとする。お断りをしても執拗に特別扱いを要求する。または、文書等での謝罪や土下座を要求する。

【対応例】 不要な発言はせず、対応を上司などの上位者と交代する。要求には応じない。

7.店舗外(院外)拘束型

クレームの詳細が分からない状態で、職場外(院外)である顧客等(患者家族)の自宅や特定の喫茶店などに呼びつける。

【対応例】 基本的には単独での対応は行わず、クレームの詳細を確認した上で、対応を検討する。…店外(院外)で対応する場合は、公共性の高い場所を指定する。納得されず従業員(病院職員)を返さないという事態になった場合には、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。

8.SNS/インターネット上での誹謗中傷

インターネット上に名誉を棄損する、またはプライバシーを侵害する情報を掲載する。

【対応例】 掲示板やSNSの被害については、掲載先のホームページ等の運営者(管理人)に削除を求める。投稿者に対して損害賠償等を請求したい場合は、必要に応じて弁護士に相談しつつ、発信者情報の開示を請求する。名誉棄損等について、投稿者の処罰を望む場合は弁護士や警察への相談等を検討する。解決策や削除の求め方が分からない場合には、法務局や違法・有害情報相談センター、「誹謗中傷ホットライン」(セーファーインターネット協会)に相談する。

9.セクシュアルハラスメント型

従業員(病院職員)の身体に触る、待ち伏せする、つきまとう等の性的な行動、食事やデートに執拗に誘う、性的な冗談といった性的な内容の発言を行う。

【対応例】 性的な言動に対しては、録音・録画による証拠を残し、被害者(病院職員)及び加害者(患者家族)に事実確認を行い、加害者には警告を行う。執拗なつきまとい、待ち伏せに対しては、施設への出入り禁止を伝え、それでも繰り返す場合には、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。