No.107/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その4)

No.107/2022.11.1発行
弁護士 福﨑 博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その4)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№4】
-病院が具体的に取り組むべきペイハラ対策①-

5. 企業(病院)が具体的に取り組むべきカスハラ(ペイハラ)対策(18~45頁)

(1)カスハラ(ペイハラ)対策の基本的な枠組み(18~19頁)

厚労省が策定を推進した「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(以下「カスハラ対策企業マニュアル」)では、企業(病院)がカスハラ(ペイハラ)対策の基本的な枠組みを構築するため、「カスハラ(ペイハラ)を想定した事前の準備、実際に起こった際の対応として、以下の取組みを実施するとよい」としています。

【カスハラ(ペイハラ)を想定した事前の準備】

❶ 事業主(病院)の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員(病院職員)への周知・啓発

❷ 従業員(病院職員)(=被害者)のための相談対応体制の整備

❸ 対応方法・手順の策定

❹ 社内(院内)対応ルールの従業員(病院職員)等への教育・研修 【カスハラ(ペイハラ)が実際に起こった際の対応】

❺ 事実関係の正確な確認と事案への対応

❻ 従業員(病院職員)への配慮の措置

❼ 再発防止のための取組み

(2)カスハラ(ペイハラ)対策の具体的な取組み

❶ 事業主(病院)の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員(病院職員)への周知・啓発(20~21頁)

カスハラ対策企業マニュアルでは、以下のような記述がありますが、病院のトップがその基本方針や姿勢を発信して、病院職員へ周知啓発することは非常に重要なことです。

企業(病院)のトップは、カスハラ(ペイハラ)対策への取組姿勢を明確に示す必要があります。企業(病院)として、職場におけるカスハラ(ペイハラ)をなくす旨の方針を明確にし、トップ自ら発信することが重要です。 企業(病院)として、基本方針や姿勢を明確にすることにより、企業(病院)が従業員(病院職員)を守り、尊重しながら業務を進めるという安心感が従業員(病院職員)に育まれます。企業(病院)の姿勢が明確になることで、カスハラ(ペイハラ)を受けた従業員(病院職員)や周囲の従業員(病院職員)も、トラブル事例や解消に関して発言がしやすくなり、その結果、トラブルの再発を防ぐことにもつながります。

事業所(院内)に掲げる基本方針の例として、以下の例文が掲げられています。

【基本方針の例文】

弊社(当院)は、お客様(患者様)に対して真摯に対応し、信頼や期待に応えることで、より高い満足を提供することを心掛けます。一方で、お客様(患者様やご家族)からの常識の範囲を超えた要求や言動の中には、従業員(病院職員)の人格を否定する言動、暴力、セクシュアルハラスメント等の従業員(病院職員)の尊厳を傷つけるものもあり、これらの行為は、職場環境の悪化を招く、ゆゆしき問題です。 わたしたちは、従業員(病院職員)の人権を尊重するため、これらの要求や言動に対しては、お客様(患者様やご家族)に対し、誠意をもって対応しつつも、毅然とした態度で対応します。 もし、お客様(患者様やご家族)からこれらの行為を受けた際には、従業員(病院職員)が上司等に報告・・相談することを推奨しており、相談があった際には組織的に対応します。

❷ 従業員(病院職員)(=被害者)のための相談対応体制の整備(22~24頁)

カスハラ対策企業マニュアルでは、この点について、おおむね次のようにまとめられています。

カスハラ(ペイハラ)を受けた従業員(病院職員)が気軽に相談できるように相談対応者を決めておき、または相談窓口を設置して広く周知する必要があります。…相談対応者は、相談者の心身の状況や受け止め方など認識にも配慮しながら慎重に相談に応じます。上記対応を実現するためには、人事労務部門や法務部門、外部関係機関(弁護士等)と連携できるような体制を構築するとともに、具体的な対応方法をまとめたマニュアルを整備し、相談対応者向けに研修等を実施することが有効です。

【相談対応者】

従業員(病院職員)からカスハラ(ペイハラ)に関する相談を受ける相談対応者は、相談者の上司、現場の管理監督者が担うことが考えられます。なお、相談窓口は、カスハラ(ペイハラ)のために必ずしも特別に設ける必要はありません。パワハラ等を取り扱うハラスメント相談窓口等で対応できるようにするとよいでしょう。

【相談対応者の役割】

相談対応者は、現場の状況把握や事実確認と報告、顧客等(患者家族)への対応、相談者へのフォローなどの役割を担うことになるため、相談対応者への教育は大変重要となります。相談対応者には定期的に研修等を行うことが有効です。

【相談対応を行う上での留意点について】

軽微と思われる事案であっても深刻な問題が潜んでいる場合があります。初期対応次第で、相談者の不信感を生むことや問題解決に支障が生じること、会社(病院)や上司に不信感を生じさせる可能性がありますので、相談対応者は丁寧な対応が望まれます。また、相談対応者は、相談者の話を傾聴する姿勢が重要で、詰問にならないように留意する必要があります。万一、相談者から「死にたい」などと自殺を暗示する言動があった場合には、相談対応者は人事部門と連携し、直ちに産業医等の医療専門家につなぐことが求められます。

【カスハラ(ペイハラ)対策を中心となって進める組織の設置】

カスハラ(ペイハラ)に対応する体制を構築する上では、従業員(病院職員)からの相談を受ける相談対応者、相談窓口とは別に、カスハラ(ペイハラ)対策を推進し、取組み全体を所管する組織があるとよいでしょう。また、相談対応者や相談窓口等から受けた情報をもとに、法的対応や外部機関との連携が必要となる事案について判断、アドバイスを行う等の役割が考えられます。企業(病院)として一体的に対応できるようにしておくことが望まれます。