No.101/(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その1)厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№1】

No.101/2022.9.15発行
弁護士 福﨑博孝

(続)ペイシェントハラスメントへの対処法(その1)
厚労省の‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル”によるペイシェントハラスメント対策【№1】
-ペイシェントハラスメントとは何か(ペイハラはカスハラに含まれる)-

(はじめに)

みなさんは、‟カスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会”(以下「マニュアル策定委員会」といいます。)が、厚労省からの事業委託を受けて2022年(令和4年)2月に完成させた「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(以下「カスハラ対策企業マニュアル」)をご存じですか(その黄色い表紙を添付しておきます。)。パワハラ防止法(通称)に基づく令和2年1月策定のパワハラ防止指針(通称)に従って、厚労省の肝いりで完成したのが「カスハラ対策企業マニュアル」であり、今後きわめて重要なものとなってくる可能性があります。 そもそも、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)とは、顧客等からの事業者の職員に対する‟自己中心的で理不尽な要求や悪質なクレームなどの迷惑行為”のことを意味しますが、医療契約においては、患者家族が「顧客等」、医療機関が「事業者」となります。したがって、ペイシェントハラスメント(以下「ペイハラ」)の場合には、患者家族からの医療機関の医師・看護師など病院職員(以下「病院職員」)に対する‟自己中心的で理不尽な要求や悪質なクレームなどの迷惑行為”ということになり、‟ペイハラはカスハラの一部(ペイハラはカスハラに含まれる)”ということになってしまうのです。したがって、「カスハラ対策企業マニュアル」は、ペイハラ対策にもそのまま利用できるということになります。

そこで今回の‟(続)ペイシェントハラスメント」への対処法”においては、この‟カスハラ対策企業マニュアル”を利用し、医療者がペイハラ患者家族に対して、‟どのような対処の仕方をすればよいのか”を検討してみたいと思います。いずれにしても、「カスハラ対策企業マニュアル」は、いわば‟ペイハラ対策病院マニュアル”として利用できるということなのです。

1.カスハラ対策企業マニュアルにおける「ペイシェントハラスメント」(7~12頁)

カスハラ対策企業マニュアルでは、「カスタマーハラスメントとは」という見出しでカスハラの定義付けや判断基準を説明しています。そこで、以下では、「企業」を「病院」、「労働者」を「病院職員(医師・看護師等)」、「顧客等」を「患者家族」、「カスハラ」を「ペイハラ」と読み替えて、カスハラ対策企業マニュアルを読んでいただくとペイハラ対策が見えてきます。

(1)カスハラ対策企業マニュアルでのカスハラ(ペイハラ)(7~8頁)

カスハラ対策企業マニュアルでは、企業へのヒアリング調査等の結果を基に、企業(病院)の現場においては以下のようなものがカスハラ(ペイハラ)であるとしています。

顧客等(患者家族)からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者(病院職員)の就業環境が害されるもの

そしてその上で、同マニュアルでは、「顧客等(患者家族)の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例として、

〇企業(病院)の提供する商品・サービス(医療行為)に瑕疵・過失(ミス・過失)が認められない場合、〇要求の内容が、企業(病院)の提供する商品・サービス(医療行為)の内容とは関係がない場合を挙げています。

次に、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例を挙げ、まず「要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの」として、

〇身体的な攻撃(暴行、傷害)、〇精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)、〇威圧的な言動、〇土下座の要求、〇継続的な(繰り返される)執拗な(しつこい)言動、〇拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)、〇差別的な言動、〇従業員(病院職員)個人への攻撃、要求

を挙げています。

また、「要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの」として、

〇商品交換の要求、〇金銭補償の要求、〇謝罪の要求(土下座を除く)

を挙げています。

以上でお分かりと思いますが、‟カスハラで取り扱われる迷惑行為”と、‟ペイハラで扱われる迷惑行為”とでは、そのほとんどにおいて相違はなく、「カスハラ対策はそのままペイハラ対策となる」ことを意味しているのです。

(2)企業(病院)が悩む顧客等(患者家族)からの迷惑行為(9頁)

カスハラ対策企業マニュアルを作成するにあたり、マニュアル策定委員会は、小売業・運送業・飲食サービス業・宿泊業など顧客と接することの多い業種に属する企業にヒアリングを実施していますが、その結果カスハラに類する行為として、以下のような顧客等の行為が確認されています。しかし、これらのほとんどが病院でのペイハラにも共通するものであり、正当な理由がなく過度に要求する事案や対応者の揚げ足を取って困らせる事案が多くみられます。特に、【時間拘束】【リピート型】【暴言】【脅迫】【セクハラ】は、病院においても頻繁にみられるのであり、弁護士相談も非常に多くなっています。

【時間拘束】 1時間を超える長時間の拘束・居座り。長時間の電話強要。時間の拘束で業務に支障を及ぼす行為

【リピート型】 頻繁に来店(来院)しその度にクレーム。度重なる電話、複数部署にまたがる複数回のクレーム

【暴言】 大声・暴言で執拗にオペレーター(病院職員)を責める。店内(院内)で大きな声をあげて秩序を乱す。大声での恫喝・罵声・暴言の繰り返し

【対応者の揚げ足取り】 電話対応での揚げ足取り。自らの要求を繰り返し通らない場合は言葉尻を捉える。同じ質問を繰り返し対応のミスが出たところで責める。一方的にこちらの落ち度に対してのクレーム。当初の話からのすり替え・揚げ足取り・執拗な攻め立て

【脅迫】 脅迫的・反社会的な言動。物を壊す・殺すなどの発言による脅し。SNSやマスコミに暴露をほのめかす脅し

【権威型】 優位な立場にいることを利用した暴言。特別扱いの要求

【SNSへの投稿】インターネット上の投稿(職員の氏名公表)。会社(病院)・社員(病院職員)の信用を棄損させる行為

【正当な理由のない過度な要求】 言いがかりによる金銭要求。制度上対応できないことの要求。契約内容を超えた過剰な要求

【セクハラ】 特定の従業員(看護師など)へのつきまとい。従業員(看護師など)へのわいせつ行為や盗撮

【その他】 事務所(敷地内)への不法侵入。正当な理由のない業務スペースへの立ち入り

カスタマーハラスメント対策企業マニュアル