No.74/これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その4)

No.74/2022.3.1発行
弁護士 福﨑博孝

これからの‟医師の働き方改革”-病院は今後どうすれば?-(その4)

-2024年4月までの医師の労働時間短縮(病院全体での取組みの強化)-

5.2024年4月までの労働時間の短縮

医療機関は、2024年4月までの約2年間で医師の就労状況を適切に分析し、計画的に労働時間短縮に取り組んでいく必要があり、(C水準の対象となる業務を除き)A水準の適用となることを目指すことになります。すなわち、計画的に労働時間の短縮に取り組む必要があり、医師の働き方改革に関する検討会(以下「検討会」)では、ステップ1、ステップ2、ステップ3と3段階に分けて説明しています。そのためには、様々な取組み(タスクシェアリング・タスクシフティング等)を組み合わせて取り組んでいく必要がありますが、個々の医療現場で確実に労働時間短縮が実現していくよう、①医療機関の管理者のみならず中堅の管理職が改革の方向性を理解して取り組むこと、②管理部門がそのサポートをする体制をとること、③医師はもとより看護師をはじめとした医療従事者(全員)の意識改革・業務改革を進めることが必要であるとされています。

(1)時間外労働時間の実態把握と短縮計画の策定

【ステップ1】(実態把握)

まず、各医療機関において時間外労働時間の実態を的確に把握する必要があります。適正な労務管理は、B・C水準の適用の大前提といえます。また、実態把握に際しては、「宿日直や研鑚の取扱いについての通達」を確認するとともに、それを前提とした正確な労働時間の実態把握をする必要があります。

【ステップ2】(短縮幅の見通し)

ステップ1で時間外労働の実態を把握したら、2024年4月までに達成できる‟時間外労働の短縮幅の見通し”をたてる必要があります。

【ステップ3】(労働時間短縮計画の作成)

ステップ1、2を経たうえで、各医療機関において、医療機関内で取り組める事項についてなるべく早期に医師労働時間短縮計画を作成し、PDCAサイクル(プラン-計画、ドウ-実行、チェック-評価、アクション-行動)による取り組みを進めなければなりません。当該短縮計画は、2024年4月までの間のなるべく早い時期に都道府県に提出し、定期的にその実績を踏まえて必要な見直しを行い、毎年都道府県に提出することになります。 【都道府県によるB水準対象医療機関の指定】 都道府県は、当該医療機関がステップ1、2、3を実施した後にB水準対象医療機関として指定することとされており、各医療機関の医師の時間外労働時間の概況を把握したうえで、B水準の適用対象医療機関を選定することになります。B水準の対象医療機関の指定は、2023年度中に終了している必要があり、指定に当たっては、ステップ1~3の取組みが着実になされていることを確認した上で行うことになりそうです。

(2)医師労働時間短縮計画の策定

B水準は、医療機関内のマネジメント改革を進めてもなお、地域に必要な医療提供体制の確保のためにA水準を超えざるを得ない場合に適用される水準であることから、追加的健康確保措置の実施体制を整備しつつ、計画的に労働時間短縮に取り組む必要があります。このため、各医療機関は、医師を含む各職種が参加して医師労働時間短縮計画を策定し、都道府県に提出することになります。その上でPDCAサイクルに基づき、当該計画を少なくとも年1回点検し、必要な改善を行うことを含め、労働時間短縮に取り組まなければなりません。 医師労働時間短縮計画作成は、医療法第30条の19に基づく努力義務が課されている「診療勤務環境改善マネジメントシステム」として、各職種(特に医師)が参加して検討を行う等の手順を想定しています。当該短縮計画・手順は、B・C水準の適用対象要件の確認にも用いることも念頭に、2024年4月までの間のなるべく早期に、医師の長時間労働の実態がある一定の医療機関に対して作成を義務付ける必要があります。当該短縮計画においては、「緊急的な取組」の項目など‟医師の労働時間短縮のための取組項目”を記載するほか、‟前年度の医師の時間外労働実績(時間数)”を記載し、改善状況を各医療機関において毎年検証して、実際の労働時間短縮を実現していくために活用することになります。また、特に2024年4月までの間においては、当該実績(時間数)において年1860時間(155時間/月)超過がみられる場合にその解消に向けて取り組むことが最重要課題となります。

(3)医師労働時間短縮目標ライン

B水準・連携B水準対象医療機関は、2024年4月以降も2036年(令和18年)まで労働時間の短縮の努力を続けてA水準で対応できるよう努力する必要があります(B水準のA水準への統合)。その目標達成のために医師労働時間短縮目標ラインを設定することが求められます。 2024年4月の上限規制の適用開始までに着実に医師の労働時間を短縮し、2035年度末までにB・連携B水準を廃止するという目標を達成するためにも、医師労働時間短縮目標ラインを設定する必要があります。また、当該目標ラインを目安に、各医療機関は医師の労働時間の短縮に向けた取組や医師労働時間短縮計画を少なくとも年1回点検し、必要な改善を行う必要があります。

(4)医師の労働時間短縮体制の構築

各医療機関とも、上記短縮計画を作成し、その内容のとおりに実現していくためには、当該医療機関の組織を挙げた対応が必要です。理事長・病院長の高い意識と、その対応のための組織化が求められ、医師の働き方改革実現のための管理責任者、事務統括部署などを明確にする必要があります。

(5)医療機関勤務環境評価センター(評価機能)

検討会報告書などで「評価機能」と称していた機関の正式名称は「医療機関勤務環境評価センター」(以下「評価センター」)ということになりました。評価センターは、地域医療提供体制の実情も踏まえ、当該医療機関における医師の長時間労働の実態及び労働時間短縮の取組状況を客観的に分析・評価し、当該医療機関や都道府県に結果を通知し、必要な取組を促すことになります。そして、その評価結果を踏まえて、都道府県はB水準等の対象医療機関の指定等を行うことになります。したがって、その性質上、都道府県から中立の機能であること、地域医療提供体制の実情やタスク・シフティングの実施状況等を評価するために必要な医療に関する知見を有することが必要とされています。

(6)都道府県の医療勤務環境改善支援センター

短縮計画の作成等の2024年4月までの医療機関の作業については、必要に応じて各都道府県の医療勤務環境改善支援センターに相談し、アドバイスを受けることができます。その際、計画の内容のみならず、医療機関の勤務環境の改善に向けた支援を同センターから受けることも医師の働き方改革の推進に効果的と考えられます。各都道府県には勤務環境改善センターが設置されています。何かわからないことがあれば、同センターに相談してみて下さい。 長崎県医療勤務環境改善支援センターは、長崎県福祉保健部医療人材対策室に置かれています(電話092-895-2425)。