No.5/正当な理由のない電子カルテの閲覧にはどのような問題があるか

No.5/2020.8.15発行

弁護士 川島 陽介

 先日、とある病院から、「コロナの関係で院内関係者による電子カルテの閲覧を懸念している。正当な理由のない閲覧にどのような法的問題があるか教えて欲しい。」との相談がありました。確かに、コロナ感染者の行動把握や素性を知りたいとの欲求等から、このような目的での電子カルテの閲覧はどの病院でも起こり得ることと思われます。

1.個人情報保護関連法

(1)まず、本人の同意を得ることなく、カルテ情報を取得することから、原則として個人情報保護関連法に違反することになります。個人情報保護関連法には様々なものがあり、その病院の性質によって、適用される法規も異なりますが、いずれの法規も情報の第三者への「提供」を処罰の対象としています。それに加え、独立行政法人・国立大学法人の職員については、公務員に準じる立場として、情報(ただし、個人の秘密に属する事項)の「収集」も処罰の対象となる場合があります。

(2)医療従事者としては、単に電子カルテを閲覧したのみではこれらの法規が規定する罰則の対象とはなりませんが、その情報を第三者に「提供」したり、「収集」したりすると犯罪となる可能性があることを認識しておく必要があります。そもそもこのような医療者としての倫理に反することを行うことは、下記4の就業規則等に違反することになり、懲戒処分の対象になります。

2.秘密漏示罪

 医師や看護師をはじめ医療従事者には法令上の守秘義務が課せられていますので、電子カルテの閲覧により得られた情報を漏洩することにより、守秘義務違反となり、刑法等の秘密漏示罪に該当する可能性があります。医療従事者は、自身の職務に関連して高度の守秘義務が課せられていることを改めて認識しておくべきといえます。

3.不正アクセス禁止法

 仮に電子カルテを閲覧した者が、閲覧権限を与えられていない者であった場合(ID等が与えられていない者であった場合)には、閲覧するためのアクセス自体が「不正アクセス」となり、当該法規の罰則が適用されることになります。権限者の承諾を得ている場合には「不正アクセス」とはなりませんが、それでも上記1,2の法規違反となる可能性はあります。

4.就業規則等の内部規定に基づく懲戒処分

 以上の1~3の記載は、刑事罰に関連するものであり、実際のところ単に電子カルテの閲覧行為のみにとどまり、当該情報の提供や収集等が認められない場合には、刑事罰を受ける可能性は低いといえます。しかしながら、いずれの病院においても、就業規則等によって、正当な理由のない情報の閲覧は禁止されているはずであり、また、許される行為でないことは社会的な共通認識となっているものと思われます。したがって、正当な理由のない電子カルテの閲覧が発覚した場合には、懲戒処分を受けることは避けられません。

5.医療従事者として認識しておくべきこと

 結論として、正当な理由のない電子カルテの閲覧は、刑事罰のある犯罪に該当する可能性が否定できないばかりか、就業規則等の違反行為として懲戒処分を受けることとなります。絶対に行わないようにしてください。