No.44/“判断能力・同意能力のない患者”についてのインフォームド・コンセント(その7)

No.44/2021.7.1発行
弁護士 福﨑 博孝

“判断能力・同意能力のない患者”についてのインフォームド・コンセント(その7) -患者に判断能力・同意能力がないときには誰に説明すればよいのか?-

(2)家族がいない場合

(ア)家族がいない場合の原則的な対応

人生の最終段階(終末期)における医療行為の決定プロセスに関する平成30年3月付ガイドライン(以下「ガイドライン」)では、医療行為の開始・不開始、医療行為の中止について、まずは、「医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本としたうえで、終末期医療を進めることが最も重要な原則である」とされ、それが不可能なときには、「家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする」とされています。しかし、それらが尽きた(家族がいない、又は、家族による患者本人の意思の推定が出来ない)場合には、「多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、“医学的妥当性と適切性”を基に慎重に判断すべきである。」とならざるを得ないとされています。 このことは、なにも終末期医療に限ったことではなく、“判断能力(同意能力)を欠く成年患者に対して医療行為を行う場合”にも同じように考えることができます。家族にその判断(同意)や考え方を聞くこと等によって患者本人の意思を推定する努力をしながらも、それが出来ないときには、「患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする」(いわゆる「最善の医療を施す」)ということになります。 そしてまた、家族がいない場合及び家族が判断を医療者に委ねる場合にも、「患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする」ということにならざるを得ません。すなわち、ガイドラインも指摘するとおり、「家族がいない場合及び家族が判断せず、決定を医療・ケアチームにゆだねる場合には、医療・ケアチームが医療の妥当性・適切性を判断して、その患者にとって最善の医療を実施する必要があります。なお家族が判断をゆだねる場合にも、その決定内容を説明し十分に理解してもらうよう努める必要があります。」ということになるのです。

(イ)家族はいないが成年後見人はいる場合の対応

ところで、“家族はいないが、成年後見人はいる”という場合もありますが、上述したとおり、成年後見人は、成年被後見人である患者の医療行為について同意する権限を有しているわけではありません。したがって、“成年後見人の同意がないから医療行為を行うことができない”と考えることはできないのです。この場合にも、基本的には、「患者にとって何が最善であるかを検討し、最善の治療方針で医療行為を行う」ということにならざるを得ないのです。 もっとも、確かに、成年被後見人には、医療行為についての同意権限はないかもしれませんが、成年被後見人と医療者との間の診療契約の締結についてはその代理権限を有していますし、また、成年後見人の職務の一つして身上看護があり、成年被後見人のQOLにも関わりを持たざるを得ない立場にもあります。したがって、少なくとも、最善の治療方針で医療行為を行うための一つの判断要素として、成年後見人の意見ないし考え方を聴取することは必要であり、その過程を経て初めて最善の治療方針が確定できるものと考えるべきです。医療者が同意書に成年後見人のサインをもらう、ということは、そのような意味があるのです。したがって、当然のこととして、成年後見人がサインを断ることもあり得ます(むしろ、成年後見人には医療行為についての同意権限がないのですから、サインを拒むことの方が普通なのです。)。しかし、だからといって、当該患者の医療行為が出来なくなるというわけではなく、それでもなお、医療者は、「最善の治療方針」に従った対処を行わなければならないのです。いずれにしても、成年後見人には医療行為についての同意権限がないからといって、成年後見人の意見を無視するわけにはいかないということなのです。

(ウ)主治医としての精神科医の意見

さらには、当該成年患者には精神科医療の主治医として精神科医がついている場合も考えられますが、その精神科医にも精神科医領域以外の手術などの医療行為に関する同意権限があるわけではありません。しかし、判断能力を欠いた成年患者に手術などの医療行為を行う医療者は、精神科疾患の主治医である精神科医にも意見を聞くことは当然必要なことであり、このことも、「患者にとって何が最善であるかを検討し、最善の治療方針で医療行為を行う」という「最善の治療方針」を確定するための重要な過程的要素ということができます。仮に、精神科医が同意書にサインしてくれたとしても、精神科医の同意書へのサインは、以上のような意味であることを忘れてはなりません。すなわち、最終的には、施術を行う医療者が、当該患者にとっての「最善の治療方針」に従った医療行為を行わなければならないということなのです。

(エ)同意能力を欠く「身寄りのない患者」への対応

最後に、「身寄りのない認知症患者などの医療行為」についても考えておく必要があります。患者本人の医療行為を決定したくても、患者本人に理解力も判断能力もなく、また、医療者が相談する家族もいないことが多くなっています。このような場合には、当該患者が日ごろお世話になっている施設の長などの関係者、友人や近所で親しくしている方、当該患者を介護などで世話してくれている方など、普段の患者本人を知っており、患者本人の考え方や価値観に接することのできる立場にある人たちに相談しながら、「最善の医療」を施していくしかありません。医学的妥当性や適切性が認められる最善の医療、終末期医療についてのあり方などについて、患者本人の立場に立って関係者と協議しながら、判断能力を失った患者本人にとって「何が最も意に沿う(患者意思の推定)医療行為なのか」を考えていくということになります。

もちろん、このような方法には今のところ決まった手法や基準があるわけではありませんが、「医療者として、患者のために最善を尽くしたといえる程度のことは求められることになる」と考えておいた方が無難だと思います。そして、そのことを診療記録などに書き残すということも忘れないようにして下さい。