No.4/職員の新型コロナ感染とパワハラ防止法② 【新型コロナ感染職員の職場復帰を目指して】
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No.4/2020.8.1 発行
弁護士 福﨑博孝
5.事業者(医療機関)と労働者(職員)の責務
(1)防止法では、事業者は、「優越的言動問題(パワハラ問題)に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をする」とされ、その一方で、労働者は、「優越的言動問題(パワハラ問題)に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業者の講ずる前条第1項の措置(下記6.に記載する措置)に協力するよう努めなければならない」と定められています。さらに同法では、パワハラ事案が発生した場合には、事業者は、「事実関係を迅速かつ正確に確認し、速やかに被害者に対する配慮措置を行い、当該行為者に対する措置を適正に行うこと」としているのです。
(2)すなわち、まず病院管理者(事業者)は、コロナ差別によるパワハラが起きないよう、それを回避するための措置を講ずる必要があります。また、実際にパワハラが起きた場合にはそれに対する加害者への対処、被害者への配慮が求められます。さらに当然のことですが、これらを防止するために職員に対する研修なども行う必要がありますし、普段から職員の言動に注意することを求められています。要するに、病院管理者(事業者)には、職員間においてコロナ差別(ハラスメント)などを惹き起こさせないようにする法的責任があるといえます。しかしその一方で、労働者である職員についても、自らの言動に必要な注意を払うことが求められ、事業者の措置に対してそれに協力することが求められているのです。つまり、病院職員(労働者)は、同僚職員等に対してコロナ差別(ハラスメント)となるような言動を慎むべき義務があるのであり、それに違反すれば法的責任(損害賠償責任など)を問われかねないということになるのです。
6.事業者(医療機関)が雇用管理上講ずべき措置
事業者は、職場におけるパワハラを防止するために、雇用管理上、①事業者の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応、④相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置、⑤パワハラ相談をしたこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定めて労働者に周知すること等の措置を講じなければなりません。このことはコロナ禍騒動においても同様であり、コロナ差別を防止するため事業者は雇用管理上、上記①~⑤を講じなければならないのです。
7.事業者(医療機関)が行うことが望ましい取組み
(1)事業者(医療機関)が自ら雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組み
事業者は、他の事業者が雇用する労働者のみならず、個人事業者、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する「自らが雇用する労働者の言動」についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、「事業者自ら」や「労働者」も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましいとされています。つまり、防止法では、「同じ職場で働く者」間でのハラスメント問題だけではなく、「自らが雇用する職員が、他の事業者の職員に対して行うパワハラ」も規制の対象にしています。したがって、病院管理者は、当該病院で働く他の会社の職員(例えば「清掃員」など)がパワハラを受けた場合にも、加害者が自ら雇用する病院職員である以上、そのことへの適切な対応が求められます。また、病院職員が出入りの業者に対して無理難題を求めたり、下請けいじめ的な言動を繰り返したりすることについては、十分な対応をとる必要があります。
(2)事業者(医療機関)が他の事業者の雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組み
事業者は、取引先等の他の事業者が雇用する労働者又は他の事業者からのパワハラや、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上、①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、②被害者への配慮のための取組みを行うことが望ましいとし、さらに、③他の事業者が雇用する労働者等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組み等を行うことも、その雇用する労働者が被害を受けることを防止するうえで有効と考えられるとしています。
(3)拡がりをみせるパワハラ場面
以上のとおり、防止法では、「事業者自らが雇用する労働者以外の者に対するパワハラ言動」、「他の事業者が雇用する労働者又は顧客等から自ら雇用する労働者に対するパワハラ言動」についても、事業者による何らかの対応を想定しています。要するに、「職場において」という要件を満たす限り、「外部者に対するパワハラ」も、「外部者からのパワハラ」も、防止法の対象であり、法的義務規定にまではなっていないものの、わが国の法律が「カスタマーハラスメント(カスハラ)」「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」など「外部者からのパワハラ」も含めてハラスメントに対する法的対応を開始したものといえます。要するに、医療機関は、「自ら雇用する職員」が当該病院において「他の事業者の労働者にハラスメントを行う場合」も、また、「自ら雇用する職員」が当該病院において「他の事業者の労働者からパワハラ(差別)を受ける場合」にも、それらへの対応を余儀なくされることになります。また、「顧客等からの自らの雇用する職員に対する著しい迷惑行為」に関しても何らかの対応を余儀なくされます。ここでは「顧客等」と記載してあり、病院はサービス業と位置付けられていますから、そこには「患者家族」も含まれ、ペイシェントハラスメントについても病院管理者が何らかの対応をしなければならなくなります。コロナ差別について言えば、加害者が病院職員であろうが、病院で働く他の会社の職員であろうが、さらには、患者家族であろうが、差別の対象が当該病院の職員である以上は、当該病院はこれに対する適切な対応を余儀なくされるということになります。
8.最後に(コミュニケーションの重要性)
最後に、本件のような事案で最も重要なことを申し上げます。防止指針では、事業者は、職場におけるパワハラの原因や背景となる要因を解消するために、「コミュニケーションの活性化や円滑化」をはかること(その研修等)が極めて重要であると指摘しています。ハラスメントが人間関係のもつれ、相互理解・思いやりの欠如から発していることからすれば、コミュニケーション関係の構築をはかる努力、それを強める努力が必要なのです。