No.36/“判断能力・同意能力のない患者”についてのインフォームド・コンセント(その3)

No.36/2021.5.6 発行
弁護士 福﨑 博孝

“判断能力・同意能力のない患者”についてのインフォームド・コンセント(その3)
-患者に判断能力・同意能力がないときには誰に説明すればよいのか?-

第2 未成年患者への医療行為の決定プロセス(インフォームド・コンセントとインフォームド・アセント)

1.子どもに対する医療行為とインフォームド・コンセント

未成年患者への医療行為であってもインフォームド・コンセント(以下「IC」)が必要です。そのためには当該患者に同意能力がなければなりません。未成年患者でも、当該医療行為に関して理解力・判断力を十分備えた者については、その同意能力を前提としたICが行われなければなりません。すなわち、未成年患者の財産行為については親権者又は未成年後見人の同意が必要ですが、医療行為については、「自己の病状、当該医療行為の意義・内容、及びそれに伴う危険性の程度につき認識し得る能力」(いわゆる「同意能力」)があれば、必ずしも未成年患者に対する医療行為も親権や未成年後見に服するということにはなりません。同意能力の認められる未成年患者の同意権を無視し、親権者又は未成年後見人の同意のみによって医療行為を進めることは許されないのです。したがって逆にいえば、同意能力があれば未成年患者本人の同意のみで医療行為を行うことが可能なのですが、現実には、親権者の同意が合わせて求められており、親権者や家族の立場を無視できません。すなわち、当該未成年患者の十分な理解と納得を得るためにも、親権者や家族の協力は不可欠であり、医療者としては、当該未成年患者への説明方法等を含めて親権者や家族に相談しながら進めることとなります。

2.同意能力の有無を判断する年齢の目安

以上からすれば、「同意能力のある未成年患者」と「同意能力のない未成年患者」とに分けて検討する必要があります。しかし、この点についての「年齢での明確な線引き」にはなかなか難しいものがあります。同意能力があるとまではいえないが、当該医療行為についての理解力はそれなりに認められる場合もあり、それこそ千差万別なのです。この点について一般的には、「10歳~12歳程度以上」(小学校の高学年以上)の精神的能力(認知機能)があれば「同意能力を認めてもよい」といわれることがあります。しかしこれは、親権者又は未成年後見人の事実上の同意がある場合を想定しています。また、親権者又は未成年後見人の同意がないにもかかわらず、「未成年患者の意向のみで医療行為を行うことができる場合」としては、一応の目安として「15歳~18歳(中学生から高校生)」という年齢が挙げられています。もっとも、未成年患者の医療行為についての同意能力については、医療行為の内容など具体的事情により異なることになり、より侵襲性・リスクの高い医療行為については、より高い認知機能(判断能力)が求められています。

3.インフォームド・コンセントとインフォームド・アセント(assent)

(1)いずれにしても、理解力・判断力(認知機能)が十分でない未成年患者には同意能力は認められず、その同意(ICにおける同意)は親権者や未成年後見人(法定代理人)から得ることになります。そしてそれは、未成年患者本人の同意権を親権の下におく「法定代理人としての権限」ということになりそうです。これを「同意代理」ということもありますし、また「代諾」ということもあります。そして、この親権者の同意代理・代諾権限の根拠は、子に対する身上監護権に求めることができ、実質的には、親は子どもの最善の利益を図る決定を下すものと想定されることや家族の自治の尊重によるものと説明されたりしています。また、判例・裁判例をみても、「同意能力がない未成年患者の場合には、親権者あるいは未成年後見人が、未成年患者に代わって同意することができる」ことを前提としているものと思われます(横浜地判昭和54・2・8、最判昭和56・6・19、京都地判平成17・7・12など)。

(2)いずれにしても、未成年患者に同意能力が欠けていたとしても、未成年患者の意向や希望や価値観は尊重されなければなりません。そのような同意能力が認められない場合においても、その未成年患者の希望を尊重するという趣旨で、未成年患者からの「アセント(assent 了解、賛意)」を求めるということが推奨されています。これらのICとインフォームド・アセント(以下「IA」)との関係については、「日本医学会の医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」に関するQ&Aが参考になります。そこでは「被検者が概ね小学生の年齢の場合には、本人が理解できる範囲で分かり易い説明をし、(当該被検者から)IAを得ることを試みる。…被検者が概ね中学生かそれより上の年齢で同意能力のない場合には、本人が理解できる範囲で分かり易い説明をし、(当該被検者から)IAを得る。…被検者が概ね中学生より上の年齢で同意能力のある場合には、(当該被検者から)ICをとる。なお、保護者からはICをとる。」とされています。そしてこれは、医療行為一般について参考にすることができるはずです。いずれにしても、「IA」については、一般的に、「小児患者の治療に際して、医師が保護者からのICを得るのみではなく、当事者の子どもに対しても治療に関する説明をし、同意取得(アセント)を行うこと」などという説明がなされています。


(3)以上をまとめると、①年長・年中頃までの幼児(児童福祉法では満1歳から小学校就学までの子)に対する医療行為については、当該幼児に医療行為についての同意能力がない以上、親権者が法定代理権の行使として医療者の説明を受けて同意をするということになるものと思われます。しかし、②小学生くらいの年齢になると、同意能力まではないとしても、それなりの理解力が認められるようになるでしょうから、未成年患者が理解できる範囲で分かり易い説明をし(IA)、親権者など法定代理人からもICを得るようにしなければならないと思われます。そしてさらに、③概ね中学生かそれより上の年齢の場合で、当該未成年患者に同意能力までは認められないときには、上記②と同様に当該未成年患者にIAを、親権者など法定代理人にICを実施することになります。一方、④概ね中学生かそれより上の年齢の場合で、同意能力が認められる場合には、当該未成年者からは十分な説明と理解・納得を得るという意味でのICが不可欠ということになりますが、それと伴に、特別の事情がない限り、(事実上)親権者など法定代理人への説明と理解・納得・同意(IC)も得る必要があると考えた方が無難であり、どちらか片方からの同意というのでは後々問題が生じます(また、以上の考え方は、知的障害をもつ障害者及び親権者・後見人等へのIC、IAを検討するときにも参考になると思われます。)。

なお、現行民法で成年年齢は20歳ですが、民法の改正によりそれが18歳とされ2022年4月1日から施行されることになりますが、成年年齢が引き下げられることを考えると、これからはその同意能力も低めの年齢で肯定されていくかもしれません。