No.17/ペイシェントハラスメントへの対処法(その1)-その理論と実践-

No.17/2020.12.1発行
弁護士 福﨑 博孝

今回から7回にわたり、「ペイシェントハラスメントへの対処法-その理論と実践-」というテーマで筆を進めてみたいと思います。 ペイシェントハラスメントは、医療者が患者家族から受ける暴言・暴力・セクハラなどのハラスメントのことをいいます。このことが多くの病院や医院において重大な問題となっており、これに対するきちんとした対処が求められています。私もこれまで医療現場での多くのペイハラ相談を受け、様々な対応を試みてきました。その対応には正解・正答というものはないのですが、「一応の考え方」はあると思っています。そして、そのことを知っておくことによってより効果的なペイハラ対応が可能となるとも思っています。以下の【目次】の流れで、その考え方を披露させていただきます。

【目 次】

(はじめに) ・・・(その1)

1 ペイシェントハラスメントという考え方

(1)モンスターペイシェントと呼ぶべきではない理由

ア  モンスターペイシェントは「性格」が問題なのか、「言動」が問題なのか

イ  いわゆる「モンスターペイシェント」について ウ いわゆる「モンスターペイシェント」は“ハラスメント”であり、その中でも“ペイシェントハラスメント(ペイハラ)”に 分類されること ・・・(その2)

(2)何がハラスメントなのか(ハラスメントの違法性)

ア ハラスメントとは(一般論)

イ ハラスメントの分類

ウ パワハラがハラスメントの基本形態

エ パワハラ防止法とペイシェントハラスメント(ペイハラ)

オ パワハラの違法性からペイハラの違法性を考える

カ 医療者の指示に従うべき患者家族の義務

(3)ペイシェントハラスメントのタイプ

ア ペイシェントハラスメントの2つのタイプと3つの区分

イ 育てられたペイハラ患者家族とインフォームド・コンセント ・・・(その3)

2.ペイシェントハラスメントへの組織的対応

(1)病院組織としての態勢(体制)の在り方

(2)警察との連携の在り方 ・・・(その4)

3.ペイシェントハラスメントへの現場対応

(1)タイプの判別と対処法の基本(ペイハラのタイプを判別することの重要性)

(2)暴言・暴力への具体的な対応策 ア 具体的な対処方法(警察介入、診療拒否、退去命令、立入禁止命令など) イ 医師・病院の応需・応召義務(診療拒否の是非) ・・・(その5)

(3)ペイハラ担当職員の基本姿勢 ア ペイハラ患者家族と話合いをする時の担当職員の基本姿勢(心構え) イ ペイハラ患者家族の立場に立った対応

(4)事実経過の診療記録への記載 ・・・(その6)

4.ペイシェントハラスメントを防ぐコミュニケーション(医療者と患者家族との“コミュニケーション”、“インフォームド・コン セント”の重要性)

(1)より良い医療のためのインフォームド・コンセント(より良い人間関係の形成)

(2)医療者の説明不足(インフォームド・コンセントの欠如)は「医療紛争の呼び水」とされるが、ペイハラも同様 である

(3)より良い人間関係の構築と“誤解に基づくペイハラ”の回避(紛争回避機能)

(4)ペイハラ患者家族のモンスター化の原因の一つに「医師や看護師等の医療スタッフへの不満や不信」がある ・・・(その7)

(はじめに)

 本稿は、患者家族からのペイシェントハラスメントについての“医療者側の対処法”を、医療の現場の方々に提案するものとなっています(以下、ペイシェントハラスメントのことを「ペイハラ」といい、また、ペイハラを行う患者家族のことを「ペイハラ患者家族」といいます)。しかし、「ペイハラ」が“病院組織全体で対処すべき問題”であることからすれば、ここで提案する対処法は、臨床現場のスタッフだけが利用すべきものではなく、“病院幹部などを含めた病院組織全体”がそれを理解して、医師・看護師・事務職員などのペイハラ処理担当者を「後方支援」するためにも利用しなければその意味が半減します。これまでも、「モンスターペイシェントへの対処法」等という市販の実践図書において、具体的な対処方法が紹介されることはありましたが、ペイハラ自体の理論的な検討とその整理まではなされていなかったように思えます。ペイハラ患者家族に対し最前線で対処するペイハラ担当者も、また、その後方支援をする病院幹部も、ペイハラの現行法制下での扱われ方(2020年6月に施行されたパワハラ防止法及びそのガイドライン)、ペイハラについての「理論的な考え方」(ペイハラが違法であること、時として犯罪にもなること等)を十分に理解して、その対処法を実践する必要がありますし、それによって当該対処法の効果が一層上がることとなるものと思われます。その意味において、まず本稿では、ペイハラの「パワハラ防止法上の位置付け」や「理論的な説明」を行い、その後に「具体的な対処方法(実践法)」を紹介させていただきます(実践法においては、ペイハラにも幾つかのタイプがありそれに従った対処法が求められること、警察との連携が重要な役割を果たすことなどを具体的に説明させていただきます。)。そしてさらに、この対処法において最も重要となる「医療者の患者家族に対するインフォームド・コンセント(充実したコミュニケーション関係の構築)」についても論を進めてみたいと考えています。